表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

第2章 イシスの影 6

 マクシミヌスが自分達の披露宴に出す、お薦めのローマ料理の品目をアンジェリーカに尋ねた所、逆に彼女は、出席者達の出身地をマクシミヌスにいて来た。

 その結果、今回の料理について、アンジェリーカはマクシミヌスに二つの基本方針を示した。

 一つは、ローマ人は一人だけで、残りはブルガリア人だから、ブルガリア人の口にも合うローマ料理を出す事。

 そしてもう一つは、エディルネ市の料理人の腕前でも作れるローマ料理を出す事、だった。

 アンジェリーカから言われて見ると、俺はマニウス侯に満足して貰える事ばかりを考えていて、他の参加者の事は余り考えていなかった事に気が付いた。

 アンジェリーカ曰く、それ程の身分が高いローマの人物だったら、日頃から本格的なローマ料理を食べているから、エディルネの様な田舎町に来てまで本格的なローマ料理を食べたいとは思わない。

 アンジェリーカは、寧ろ、その人物の副菜と主菜は、ブルガリア料理を出す方が喜ばれるだろうとも言った。

 アンジェリーカの指摘は、実に的を得ているとマクシミヌスは感心した。

 抑々《そもそも》、エディルネの料理人の腕前は勿論だが、ローマ料理に造詣が浅そうなエディルネの店が選ぶ料理の品目が、俺には一番の不安材料だったのだ。

 それが、ピアチェーレで修行を積んだアンジェリーカの品目選定で、しかも、エディルネの料理人の腕前でも作れると言うなら、全ての不安が解消する。


 「いやぁ、アンジェリーカさんは素晴らしい!貴女が言われる通りの料理にしますよ」

 マクシミヌスは感が極まった表情で、アンジェリーカにそう言った。

 その後、アンジェリーカと一緒に決めた料理は、前菜がクレスの酢漬けと塩味のカタツムリの煮物、それに羊乳で作られたチーズ「ペコリーノ・ロマーノ」だった。

 そして、 副菜は白チーズを包んでオーブンで焼いたパイの「バニッツァ」と乳酸発酵キャベツの葉で挽き肉を巻いた煮物の「サルマ」に決めた。

 更に、珍味はガチョウのフォアグラ、主菜は野兎の肩肉に羊の乳を掛けて焼いた、「焼きカチャトーラ」を、アンジェリーカからは薦められた。

 アンジェリーカに言わせると、果物類はブドウとイチジクとナツメヤシで十分なのだそうだ。

 アンジェリーカの選択に、すっかり満足したマクシミヌスは、彼女に対して深い感謝の言葉を述べた。


 「あ~、もう無理!限界!やってらんない!淑女言葉で話すのは疲れるちゅうの!」

 「えっ?」

 ラーマクリオスが、ニタッと笑った。

 「ラーマクリオス、この人はアンタの友達なんでしょう?」

 この人って、若しかしたら俺の事か? 

 「そうだよ。マクシミヌスはオレの友達だ」

 「だったら、ラーマクリオスはあたいの友達だから、この人は友達の友達!てっ事は、やっぱ、この人はあたいの友達じゃん!」

 あたい?

 「あたい達はお友達なんだから、タメ口で良いよね?マクシミヌスさん」

 マクシミヌスさん?

 これが ラーマクリオスが言っていた、猫の被り物を取ったのアンジェリーカの姿なのか?

 「あ、ああ」

 マクシミヌスはアンジェリーカの毒気に押されて、思わず彼女の申し出を承諾してしまった。

 「ああ、良かった。これからも宜しくね、マクシミヌスさん」

 「あ、ああ、こちらこそ」

 マクシミヌスは尚も呆気に取られ続けていたが、アンジェリーカの助言が大いに俺の役に立った事は事実だった。

 「アンジェリーカさん、君の助言は実に有意義だったよ。有難う」

 マクシミヌスは素直な気持ちで、アンジェリーカに御礼の言葉を述べた。


 「そう?それは良かった。ラーマクリオス、毎日林檎を買って呉れるアンタへの恩返しは、これで終わったからね!じゃあマクシミヌスさん、あたいらはこれで帰るわ」

 アンジェリーカはマクシミヌスに一礼すると、館の玄関の方にきびすを返した。

 「ま、待てよ、アンジェリーカ。マクシミヌスの用件は済んんだけど、オレ達の用件の方は未だ・・・」

 「ラーマクリオス、悪いが俺は今、頭の中が混乱しているんだ。その話は後日にして呉れ」

 「しかし・・・」

 「マクシミヌスさんは、あたいからローマ料理の事を一杯聞いたから、頭の中が混乱してんのよ。ラーマクリオス、あたいらは此処ここからさっさとヅラかるよ!」

 アンジェリーカはラーマクリオスの片腕を取ると、この館から去ろうとした。


 「一寸、待って、アンジェリーカさん。今日の助言の御礼は後日、マルギ広場に使いが持って行くけど、取り敢えずこのワインをお土産で受け取って呉れ」

 アマリウスはマクシミヌスに代わって、高級ワインの壺をアンジェリーカに手渡した。

 「ふ~ん、高そうなワインだね。マクシミヌスさん、これ誰かに売っても良い?」

 アンジェリーカは、何処までも商売人だったのだ。

 「そう言う事なら、そのワインは君が飲んで、売るのはこっちのもっと高いワインの方が良いだろう」

 マクシミヌスの指示で、アマリウスは別のワインの壺をアンジェリーカに手渡した。

 「マクシミヌスさんって、気前が良いんだね。ありがと!マルギ広場で貰う御礼の品も売れる物にしてよね」

 「ああ、分かったよ」

 アンジェリーカは、自分用のワインの壺をラーマクリオスに持たせて、売り物のワインの壺は大事そうに両腕で胸に抱えながら、お尻を2回、横に振る事でさよならの挨拶に代えた。

 そのあと、マクシミヌスはサフィーネと一緒に夕食をると、しばしの間、ダンケとじゃれ合った。

 今ではすっかりダンケは、マクシミヌスになついていた。

 犬とじゃれ合うのが、こんなに楽しいとは!

 その時だけは、マクシミヌスは童心に返っていた。

 やがて彼らが自室に戻ると、マクシミヌスは馬車で独り、ズドラヴェイに向かった。

 アンジェリーカって娘は、一体どんな性格の娘なんだ?

 これはどうしても、詳しい話をルフィアから聞かないとな。


 「あら、マクシミヌス。独り?」

 ルフィアは店に入って来たマクシミヌスの姿を見つけると、接客していたテーブルを離れて出迎えた。

 「今夜は繁盛しているみたいだな」

 「お陰様でね。暑く成って来ると、皆、ビールを飲みにこの店に集まるのよ」

 「ビールか?俺も喉が渇いた。ビールを持って来て呉れ」

 「まあ?良いの?総督様が庶民みたいにビールを飲んだりしても」

 「それはローマのお偉いさんの偏見だろ?俺はガリア人程のビール好きでは無いが、ブルガリアのビール、ビーラタは旨いに決まっている」

 「じゃあ、ビーラタで乾杯ね!」


 暫くすると支配人のガラシアノスが、大き目の陶器のグラスにビーラタを並々と注いで、俺達のテーブルに運んで来た。

 「あんたが独りで来たって事は、又、あたしに相談事が有るのよね?」

 ルフィアは早くも、マクシミヌスがビールを飲みに来た訳では無い事に気が付いていた。

 「相談事と言うより、お前に質問だ」

 「その質問がお前は俺の事が好きか?だったら、答えは好きだけど、あんたの女には成らないと答えた筈よ」

 「ルフィア、真面目に聞いて呉れよ」

 「はいはい。何なの?あたしに質問って?」

 「アンジェリーカの事だ。あのアンジェリーカってむすめは、一体何者なんだ?」

 「ああ、アンジェリーカね?あのは天才なのよ!」

 「天才だって?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ