93杯目 砂漠のダンジョン
抜けるような青い空、そして眼下は全て白金の砂、砂、砂。俺たちは今砂漠を歩いている。杭に結ばれた紐に沿って1時間ほど歩くと、ダンジョンがある遺跡のような建造物が見えてくる。こんな感じで首都から近いダンジョンへは徒歩で行ける場所も多い。遠いとラクダや馬車などを使うところもある。
「さて、早速入ろう、外は暑い……」
「そうしよう、肌が痛い……」
「早く早く」
「忘れ物はないな、行くぞ」
ダンジョンに降りると急に寒いくらいになる。第1階層でも外気の影響はほとんど受けていない。
「ちゃんと身体が慣れるまでマントは羽織っておけよー」
「はーい先生」
「誰が先生だ」
「マントって良いですよね」
「わかる」
「冒険者ってやっぱりフードとかマントですよね」
「わかる」
「こう顔を隠す感じで深めにかぶって……」
「そうすると暗くて見にくいんだけどね、視野も狭くなるし。でも、わかる」
「おっと、おしゃべりはここまでだ。敵のようだぞ、ゲンツ」
「ああ、初戦が大事だ。落ち着こう」
「わかりました」
すでにシルバーが4人というパーティが、ダンジョンの浅い階層ではもう困ることはない。サクサクと下へ下へと進んでいく。
「楽すぎるな」
「ああ、そう思う」
「ソフィアさん、もう、ずっと一緒にいましょう」
「え、あ、はい……」
まるで求婚のようなヒロルのセリフも理解できる、うろたえるソフィアも少し意味を履き違えたようだ。
聖職者がいると本当に楽だ。しかも、ソフィアは攻撃魔法も使える。そっちはもう成長しないかもしれないが、実践に耐えるレベルの攻撃魔法に各種神の加護に癒やしの奇跡、パーティの安定度が段違いだ。今までも聖職者とパーティを組んだこともあったが、今のバランスがとてもいいんだろうな。俺たちの相性も含めて。
「予定の30階層を一通り回ったら今日は上がろう。調子がいいからって無理してしまいがちだが、ちょっと落ち着こう。普通に考えて初めての本格的なダンジョン探索だからな」
「そうだな、さすがはゲンツ、少し調子に乗っていた」
「私も、このまま50階まで行けるんじゃって思ってしまってました」
「すごいです、ゲンツさん……冷静ですね」
「いや、一番俺がやらかしてるから身に染みているだけだ。最悪の出来事は最も起きてほしくないタイミングで起きるからな」
そう、俺はもう何度も思い知っている。これでもかと言うぐらい自省しなければいけない。本当にマジで。
「来るぞ」
30階層ともなると、それなりに敵もパーティプレイと言うかロールをきちんと分けて攻めてくるので戦闘も気が抜けない。緊張感がありつつやりがいもある。敵と味方の思惑が入り交じる戦闘を見事にこなすと気持ちがいい。
「崩します!」
「助かるっ!」
全員息が合ってきて、いい動きもできている。このパーティはいいパーティになるぞ。
「ふぅ、おつかれ」
「このダンジョンはモンスターの種類があまり統一されていないんですね」
「ああ、それもここを選んだ理由の一つだ。多種多様なモンスターを相手にすることで、こっちもいろいろな対応が学べるからな」
「人型魔物が多いから調味料・香辛料がよく出るから、ってのもあるんだろう、ゲンツ」
「否定はしない。みんなにとってはハズレだろうが、俺にはお宝だからな、Win-Winだ」
「しかし、ドロップアイテムを見ていると、我々の生活はダンジョンに支えられているんだとわかるな」
「食料品から日常品、そして戦うための道具、場所によっては建材や素材も出ますからねぇ」
「冒険者が生活基盤を支えているのは間違いない。ダンジョンがなければ、かなり過酷な状況になる国は少なくないだろうな、特にここはな」
「砂しかないですからね」
「だからこそダンジョンが多いとも言う。神は優しいな」
「それはもう、加護をくださるのですから」
「たしかにそうだな。それでは、今日も神の加護と祝福に感謝して、街へ帰りますかね」
俺たちは、30階層を探索し、ダンジョンを引き返した。帰還石はないので徒歩で帰宅になる。
「外に出るまでが探索」
「その通り」
……せっかく冷静に戻ることを選択できたのに……
……最後まで油断をしていないつもりで、気が抜けていた……
……だからこんな事に……
「ヒロルっ!」
「……」
ヒロルは虚ろな目でこちらを見つめながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。その背後にはコウモリの大群と黒衣の魔物、ヴァンパイアがニヤニヤと笑っている。
「ケイト、ソフィアの様子は?」
「眠っている。薬が効いた様子はない」
「上位の精神魔法を使ってるのか……クソ、こんなところで大型魔物の横湧きとかありえんだろ」
そう、それは25階層で突然起きた。上を目指す俺たちのすぐ脇にボス属性魔物が湧いた。突然のことでヒロルは魅了され、ソフィアが昏睡の魔法を受けてしまった。現状のパーティにおける最悪の事態が起きた。残されたのは俺とケイト、二人でヴァンパイアを倒すことは無理ではないが、すでにヒロルが敵側にいるので、ヒロルを押さえながらヴァンパイアを退治するのは、実質ソロでの討伐に近い……しかも、ソフィアをかばいながら……
「ケイト、選択肢がない。俺がソロであいつをやる」
「……すまない、ゲンツ」
「なに、ケイトも大変な仕事がある。ヒロルとソフィアを頼むぞ」
「ああ、命に変えても」
「……猪突猛進、いつも悪いが、また頼むぜっ!!」
俺はヴァンパイアと取り巻きの大量のコウモリ共に向けてスキルを放つ。
「敵意の煽動!!」
ニヤニヤと笑っていたヴァンパイアの表情が憤怒に変わり、大量の魔物を引き連れ襲いかかってくる。やってやる、やってやるぞ!!




