94杯目 衝撃
割り切った。
取り巻きのコウモリ共の攻撃は致命的なもの以外は避けることを放棄し、ヴァンパイアの動きに集中する。
ケイトはヒロルを俺達から引き離してくれた。ソフィアをかばいながら大変だと思うが、なんとかしてもらうしかない。
ケイト達は少しずつ下がりながらヒロルの攻撃を受け流している。
俺は逆に必死に戦線を上げて通路にヴァンパイア共を抑え込んでいる。
四方八方から攻撃されれば流石に受けきれないので、なんとか敵の攻撃方向を制限する。
「ぐっ!! ええい、邪魔くさい!!」
巨大なコウモリを叩き落としながらヴァンパイアに打ち掛かる。鋭利な刃と化したマントと猪突がぶつかり合い、金属音が通路に響く。
ソフィアが目覚めてくれればヒロルを治療し、皆で参戦してくれるはず。それを期待して耐えるしかない。ただ、防戦一方では先に俺が力尽きる。
ヴァンパイアは多彩なスキルを操って戦う非常に強い魔物だ。
高い知性を持ち、吸血によって自らの下僕を作ることで知られている。
ヒロルが食らった魅了のような精神干渉、影に潜って移動する影走り、コウモリの群れを操り襲いかからせたり、血液を刃や槍にして飛ばしてきたり、こちらも対応を間違えないように工夫しなければいけない。
単純な力でもかなりのもので、血の剣と硬化したマントで華麗に戦いやがる。
「だが、悪くない!」
いい集中力で対応できている。相手の素振りから攻撃を読んで反応する。
捕まるとドレインタッチで生命力を吸い上げられ相手が回復するし、吸血されれば支配されてしまうから一切隙も見せられない。正直、魅了で助かった。あの瞬間に吸血されていれば終わっていた。どうして魔法使いの二人が精神干渉をもろに食らって俺とケイトがレジストしたのか……薬系の状態回復役はある程度持っているんだが、魔道具系の耐精神干渉系武具は、高いんだよ……
「ソフィアにはいいもの買ってやらないとなあっ!! こいつを倒してぇ!!」
猪突の一撃は敵の攻撃を弾き、良い攻撃が入りそうになると、影に潜るかコウモリになって回避する。鬱陶しいが、そのコウモリも結構な数叩き落としているから、ダメージは入っている。
「思ったより、やれてるじゃねーか! 俺っ!!」
自分でも驚いている。たぶん、慣れてきたのもある。体の変化にも、そして、敵にも。
以前の自分なら対峙することも叶わないような強力な敵との戦いの日々は、自分の中に根深くはびこっている「敵が強い」という呪縛を冷静に対応できる「敵」と認識が変わってきたのも大きい。恐怖で逃げ腰な戦いより、果敢に挑むほうが良い結果に繋がることは多い。
「もちろん、蛮勇は駄目だけどな!」
ケイト達は、うまくやってるだろうか……信じるしかないが、多分たいして時間も経っていないのだが、凄く長く感じてしまう。
戦闘だって別に楽なわけじゃない、体中は傷だらけだ。コウモリどもによって切り傷打撲は数知れずだ。ヴァンパイアの攻撃だって鋭く早く一撃で命を刈り取る攻撃に加えて血液の投射とかこちらの動きを奪いに来る攻撃だって容赦がない。
敵の剣と血による攻撃をかいくぐって必死に攻撃しようとしても、同じくスキルで避けられてしまう。強い!
「うおおおおおおおおっ!!!」
猪突を激しく振り回し、僅かな時間を作ってはポーションを流し込んで回復。
コウモリの大群が襲いかかってくるときはその影にヴァンパイアが隠れている可能性があるから意識はヴァンパイアから切るわけにはいかない。
正直集団攻撃のほうが対応しやすいからいいんだが、普通の戦闘中に横槍を入れてこられる方が対応しきれなくてダメージを受けてしまう。
通路を埋め尽くすほどだったコウモリ共も、随分と風通しが良くなってきた。
「はぁ、はぁ、しんどいな……」
戦いが長引いてきてヴァンパイアに対する挑発も煽動も効果が薄くなって、結果として俺との戦いを遊び始めた。これが一番厄介だ。
怒りに任せてガンガンかかってきてくれたほうが、俺としてはありがたい。
「弱点だな、俺の」
俺の戦いは基本的にカウンター狙いだ。棍棒による防御で崩して重い一撃を入れていくスタイルだ。こうやって間合いの外から軽い攻撃で距離を取られて戦われると攻め手に欠ける。ケイトであれば瞬時に間合いを詰めて華麗な剣技で攻撃をするだろうし、魔法使いであれば強力な魔法という攻め方がある。そして、俺の最大の攻撃である突撃はヴァンパイアには影に逃げられるかコウモリに分裂して避けられることが容易に想像できる。
「やっぱり、まだまだだ」
俺はわかりきっている事実にちょっと傷ついている。それでも、やるしかない。俺には、これしかないんだ。創意工夫、準備は整った。
「さて、最後まで付き合ってもらおうか……」
俺は火起こしで着火剤に火を付けて壁際に放り投げる。床に落ちた火種は俺の撒いた液体に触れて激しく燃え上がる。地面に撒いた液体燃料が一気に燃え上がる。俺とヴァンパイアの背後に火柱が上がる。
「俺ね、大好きなんだよね……これ」
俺はにんにくを取り出し、炎に向かって猪突で振り抜いた。
にんにくが砕け散り、油に向かってダイブしていくのだった。




