72杯目 ミスリル級冒険者
「アルバート、怪我人は確保しましたわ」
「サンキュー!! レベッカ!!
よーし、久しぶりに魔将退治だな!!
いっちょやってやるか!!」
気がつけば俺は領主たちのそばに寝かされていた。
いや、抱きしめられたと思ったら寝かせられていた。
そして、隣にはギルマスたちも、傷も完全に治っている。
「な、何が起きてる……?」
「アルバートとレベッカって……まさか、まさか……っ!?」
「ダンジョンマスター!! ミスリル冒険者アルバートレベッカ夫婦!?」
ミスリル冒険者、最高位アダマンタイトに次ぐ階位。
神代の英雄、人間の始祖と呼ばれるロート様がアダマンタイト冒険者で、他にはいない。
ミスリル冒険者はこの世界に7人しかいない。
その中で、全国の高難易度ダンジョンを渡り歩き、全てのダンジョンを制覇したと言われるのが、ダンジョンマスター、アルバートとレベッカの夫婦の冒険者だ。
年齢はもうわからない。
子供の頃から絵本の中に居るような存在だ。
そんな、人たちが、なぜこんな場所に。
「なぜこんな場所に!? って顔だな!!
簡単な話だ。
ダンジョンが出来たからだ!!」
なるほど。とはならないが。
たぶん、そういう理由なんだろう。
「貴様らっ!! 人の獲物を横取りしおって!!
小癪なっ!! ぐううぅぅぅ!!」
「おしゃべりが過ぎるのでは? 《《火よ》》」
レベッカの詠唱を聞いてヒロルとミナツギが、ガタガタと震えている。
「き、聞きました?」「聞いた」「あの詠唱に私達、数カ月分の詠唱が凝縮されてる……」「あんな魔力、制御できるはずがない、あれ、魔力じゃない、上位エネルギー、インフィニウム」
「じゃあ、アルバートさんを包みこんでいる光って、もしかして、氣力の上位の、神気!?」
まだ、俺は使用に至っていない。
ギルマスたちが最後に使った力が氣力。
氣という人間の内在するエネルギーを完璧に扱うと、ソレを身にまとい本来の力の何倍もの力を振るうことが出来る。魔力も似たことが出来る。
その2つの力を合わせて使えたのはロート様と言われていて、エターナルフォースに目覚めると人間は神になるって信じられている。
今、眼の前に、力の極限と魔の極限を見ている。
「……生きてて良かったぁ……」
俺は、眼の前の神々しくも有る戦いを網膜に焼き付ける。
「やるじゃないか魔将、生まれたてなのに」
「アスラだっ!! 貴様ら人間ごときがぁ!!」
「アスラさん、貴方を倒したら宝箱出るかしら?」
「出んっ!」
「そっか、じゃあ、また来るからまたその時に!」
「何を!?」
「レベッカ?」
「いいわよ」
レベッカさんが放った魔力がアルバートさんの身の丈ほどの大剣に吸い込まれると、剣が輝き出す。
「神砕きの大剣 エバーグローエクリプサー よ、我が願いに応じて目覚めよ」
あ、これ、エターナルフォースの輝きだ。間違いない。直感で理解する。
二人の力が合わさって、至高の輝きを見せる。
「ラディアントエクスプロージョン!!」
「ば、ばかなっ!! こ、この私がっ!? 絶対的な力を持つ、この我がぁ!!」
「いやいや、魔王とかもっと強いから。
次会う時はちゃんと宝箱出してね。1年後に来るからね」
「こ、こんな、こんなはずわぁぁぁああああっっぅたっあっあっあ……!!」
「フィニッシュっ!!」
とんでもねー力がアスラを飲み込み、そして、全てを飲み込んで消えていった。
俺達が天地がひっくりがえっても倒せない敵を、いともたやすく……
「1年後にまた来よーねレベッカー」
「そうね、でも、久しぶりに身体が動かせて、よかったわ」
「さーて皆さん。お疲れ様でしたー。
えーっと、そちらの3名。回復はさせたんですが、魂が削られてしまっているので、階位が落ちてしまうと思う。残念だけど、生き残っただけで満足して欲しい
そこの君、君が稼いだ数秒が彼らの命を救ったんだ。誇るといい」
その言葉に、視界が滲んだ。
「貴方、いい魂の輝きをしているわね。頑張ってね」
レベッカさんの瞳は、恐ろしい程美しかった。
そして、その光の奥深さは、怖くも有った。
「それでは失礼する、1年後にまた来るっ!」
そのまま当たり前のようにスタスタと出口から出ていってしまった。
「た、助かった……のか……」
俺はその場に倒れてしまった。
今更気がついた。いろいろと垂れ流していた全身がスッキリしている。
浄化魔法までいつの間にかかけられていたし、その場に居た全員、完全に無傷。
領主様も、目を覚まして危険な状態も完全に回復していた。
「お父様っ!! お兄様っ!!」
「おお、ケイト、ヒロルっ!」
親子は感動の再会を果たした。
しかし、ギルマス、フェイナ、フォルスの3名は、怪我こそ回復したが、老化していた。生命力溢れる肉体が萎んで、年相応の姿へと変わってしまっていた……
「ぬ……これは……」
「ギルマス!? 目が覚めたんですね」
「儂らは、負けたのか?」
「ミスリル冒険者のアルバートとレベッカが助けに来てくれて、あのアスラをあっという間に倒してくれましたっ!」
「そうか……これは、私達の反動ね……」
「魂が削られていて、これが限界と」
「いいじゃないかフェイナ、共に老い、共に朽ちる。
もう少し時間ができたと考えよう」
「あんた……そうさな」
「よっこいしょっと、あいたたた、なるほど、これが年相応の身体か……
ゲンツ、悪いが武器を持ってくれんか、それを持ったら腰をやりそうだわい」
「は、はいっ!!」
3人の姿に目頭が熱くなる。
カッコいい。
俺達のために、その生命を魂を掛けてくれた3人の勇者の背中は、俺にとってとても大きな物に見えた。
こうして俺達は、生きてダンジョンから脱出を果たした。
大きな大きな犠牲は払ったが……




