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47杯目 肉々

 骨付き肉の醍醐味はかぶりつくこと、このときばかりは上品さは出かけてもらおう。

 そして一気にビールで流し込む。

 旨いっ!!

 落ち着いて味わうとこの過剰気味なスパイスがすごくいい仕事をしている。

 これが酒をどんどん進めてくる。


「すいません、もう一杯エールで!」


「はいー、どうですかーうちの一番人気」


「最高だよっ! これだったらいくらでも食べられるけど、他にもオススメあればそれも一緒に頂戴」


「まいどありっ!」


 残りの肉にかぶりつき、骨までしゃぶる勢いで平らげた。

 スパイスのせいかガッツリボリュームの有る料理のはずが腹がもっとよこせと騒いでいる。


「はいおまたせっ、エールと鎧豚の塩釜焼きだよっ!」


「ありがとう」


 次もまたどーんと肉っ!!

 鎧豚は分厚く固い外皮を持つ危険な魔物でダンジョンでは普通の豚肉しか落とさないが、自然界の鎧豚はその分厚い鎧の下に絶品の肉を蓄えていることで知られている。

 フォークを突き刺すとその弾力は普通の豚肉よりもずっと強いことがわかる。

 そのまま一切れに齧り付く、ぐぅっと歯を押し返すが俺も負けじと力を込めるとブツリと肉がちぎれる。塩釜で作られているおかげで豚の旨味と塩気、そしてみずみずしさが溢れ出す。噛みごたえがむぎゅむぎゅと楽しいし、噛みしめるたびに断面から旨味のジュースが溢れ出す。


「かぁーーっ、この強めの塩っ気が酒を進ませる!!」


 何だよこれも最高じゃねーか!!

 二切れ目は小さく切り分けて一緒についているレタスーの葉、香草、野菜の千切り、そして複数のソースから好きなものを少し入れて一口に放り込む。

 単純な豚の旨味に野菜やソースが混じって複雑で、しかも新鮮なレタスーや香草がさっぱりとさせてくれて、もう、いくらでも食べられるっ!!

 脂身が多い場所はほんのり甘さを感じる脂の魅力が溢れ出す。

 しかし、肉身が多い場所は肉自体の旨味を堪能できる。

 これは楽しすぎるっ!


「蒸留酒の炭酸割りと、もしかして鳥もおすすめあるかい?」


「もちろんっ!!」


「それもくれっ!」


 こうなったら牛豚鶏全部喰ってやる!

 俺の胃袋の余剰戦力はまだまだ余裕だ!!


「はいっおまたせー! 鶏ももの肉っ!」


 じゅうじゅうと油の跳ねる音に立ち上がる鳥の香ばしい香り、これだけで一杯飲めてしまいそうだ。どんっと鶏のモモが骨付きで焼かれている。

 ここを持って豪快に喰らえ、と肉が伝えてくるので紙に巻かれた骨をむんずと掴んで豪快にかぶりつく、肉がでかいから重いっ! そして、ぶちりっと肉を引きちぎりその弾力と鶏の旨さの暴力を楽しむ。すこし辛いスパイスを強めに効かせている性で、また酒が進む! この店は、明確な目的が有る。肉と酒を喰らう店だ。

 最高だ!

 蒸留酒を炭酸で割るとさっぱりとした味わいになるし、香りが華やかに立つ。

 レモンが更に爽やかさに彩りを加えてくれるし、肉料理との相性が良すぎる。

 よく冷やしてくれているので、熱々の肉料理とは永遠の愛を誓った夫婦のようなものだ!

 

「これ、皮が絶品だな」


 香ばしく焼きめのついた皮がパリパリでジューシーで本当に美味しい。


「美味しいですよね、で、皮だけのつまみもありますよっ!」


 いいタイミングで店員が声をかけてくる、ああ、こういう店は強い。


「それじゃあそれとおかわりも」


 気がつけば酒も飲み干していた。

 そして、皮料理はカリッカリに自分から出る油であがった皮にスパイシーな香料をふんだんに使われ、そしてほんのり甘みのあるという、癖になる味だった。はちみつを使っているらしいが、スパイシーな甘さ、そしてカリカリしていながら噛んでいるとジュワ~っと旨い脂が出てくる。これは無限に食える……


 気がつけば、腹がパンパンになっていた。

 そこまで喰うつもりなかったんだが……


「ごちそうさま」


「はいっ銀貨5枚です。おにーさん冒険者ですよね?」


 あれだけ大暴れしてこの値段は安い。一品と酒で楽しめばかなり抑えられるだろう。


「ああ、今日この街についた。こんないい店に来れて運が良い」


「ソレは本当に、うち、あの時間に入れることが珍しいんで次からは少し早く来て並ぶ席予約になるんで気をつけてくださいねー」


「ああ、またぜひこさせてもらう」


「ありがとうございましたー」



 ものすごい満足感。

 街を歩く人達も俺と同じ気持ちなんだろうな、夜の街でも笑顔が溢れている。

 最高の気持ちで帰路につきたかったんだけど、先程の支払時に有ることに気がついてしまったのでそうも行かなかった……


「あんまりお金がない」


 コボルト対策でかなり出費もしたし、また香辛料やポーションも使いまくってしまったし、ずいぶんとお財布が寂しいことになってしまった……


「やばいな、街からも出られないとなると……一応依頼の確認に行くか」


 この街でそれなりに楽しく過ごすためにはある程度先立つものが必要だ。

 俺はギルドで街の中で行える適当な依頼を確かめておくために街の中心部へと足を運んだ。

 

「ゲンツ様、ちょうどよかった、明日でも良かったのですが装備の修理目処が立ちました」


 ギルドで依頼を見ていると職員の人が声をかけてきた。

 そして、渡された請求書が俺の最高の気持ちを叩き落としてくれた。


「やはりそれくらいかかりますよね……」


「だ、大丈夫ですか? 顔真っ青ですよ?」


「いや、今、その、金が無くて、なにか依頼をこなして稼ぎたいんですが……街から出ては行けないんですよね?」


「ああ、そういう、少々お待ちください。上のものに話してきます」


「すみません」


 なんという情けない話だ……

 俺は、シルバーになっても何も変わっていないんだなぁ……


 世間の厳しさに中年の背中が小さく見えるのだった……



 








 

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