46杯目 大都市
「いや、凄いなこれ」
巨大都市の宿はいくつかがまとまって街の中に存在している。
その場所によって宿のランクが分かれていて、安いランクは街の南口のそば、真ん中が東西の入り口の傍、そして高ランクの宿は町の中央から領主の館、いや城に向かう中央通り沿いに存在している。
ギルドから用意された宿がその高ランクな宿の一つだったことに驚いたが、部屋に案内されて更に驚く。
「広すぎだろ……俺の家何個分だ……」
一人で泊まるとはとても思えないほど広い部屋、というか、寝室と部屋が別になっているし、大きなバルコニーがついてるし、水やお湯が部屋で使えて、排泄をする設備や浴室なんて伝説の部屋がついている。
街を出ないで、きちんとギルドに提示された時間に出頭するならそれ以外の時間はこの街で自由に過ごして良いってんだから、かなり待遇が良い。
「もっと犯罪者扱いだと思ってた」
正直、牢に入れられると思っていた。
「すっげぇなぁ……」
もう一人になったので町並みをキョロキョロと見回しながら夕暮れの街を歩く。
店先が明るく道も歩くのに全く困ることは無いくらい明るく照らされている。
街の探索をしていると日が暮れた、日が暮れると街の街灯が光る。
凄い、これ、時間式で起動する魔道具になっているんだ……
いや、外に出ないとこんなことも知らないで死んでいくことになっていたんだなと、なんとも悲しいことを考えてしまった……
この発展した街の姿は、俺の小ささを現実を見せつけてくるようで、少し胸が苦しくなった。
「それにしても、人の営みというのはここまで力が有るんだな」
この街の人間は、とてもパワーが有る。
店で働く人は元気に客を呼び込んでいるし、買い物をする人間も根切り交渉や次から次へと自分の欲しいものを買っている。
この街の経済はとても良く回っているんだと肌で感じる。
冒険者がダンジョンに潜り、資源を持ち帰ってくる。そのかわりに金が与えられ、資源は商店に並び、その金で商品が買われていく。
冒険者も商店も街全体が豊かになっていく。
豊かな街には人が集まる。人が集まれば商売が産まれる。
こうした循環が回り続け、長い時間をかけてこの街は大都市へと成長したんだ。
そう考えると、未来の俺の姿を重ねることで、感じていた劣等感が薄れていく。
歳を取ると、未来の有る眩しい存在や、光り輝く存在に必要以上に劣等感を感じてしまうことが少なくない、時には陰鬱な気分になったり、時に攻撃的に反発してしまったり……その行動に何の意味もない、自分の人生を豊かにしないどころか、ますます惨めになると知っても、そういう気持ちが湧いてしまう。
事実、今俺は、ある程度恵まれた状態であっても、そう言った気持ちからスッキリ開放されていないことを身を以て感じた。
「まっ、20年近く燻ってたら、燃え始めるのは時間がかかるわな」
そんな話より、今日の飯だ。
宿の食事は辞退させてもらった。食事も自信があるようで少し引き下がられたが、そこまでギルドの世話になりたくないのと、この街をたくさん知って好きになりたい。そして、お金を払って食べに来ますと無理を聞いてもらった。
「正直さ、あんな立派なとこの食事はもうちょっと心の覚悟がいるんだよな……」
中央通りを南口に向かって歩いて、宿場、この街では一番リーズナブルな宿が並ぶ場所を一本横に入ると。
「おおお、これよこれ、いい雰囲気」
表通りよりも少しだけ明かりが落ちた道の両側にはずらりと飲食店が並んでいる、そして、この道は人の活気によって明るい空気を作っている。
最高の雰囲気だ!
宿に合わせてお手頃価格の店が多い、これは宿の主人に教えてもらった。
「いや、これは迷うな」
どの店も人で賑わっていて、ハズレはない。間違いない。
だからこそ迷う。
同時に胸が高鳴る、少なくとも、俺はこの街でしばらく過ごすことにするつもりだった、ここにある店、全部!
更にこの街にはもっともっとたくさんの店がある。
それをこれから楽しむ日々を想像したら、楽しくてしかたねぇ!
「ここは直感で!」
『肉と酒』
店の名前で決めた。
俺のこの街での初めての店になる。
皆が笑顔で今を存分に楽しんでいる空間に、一人少し緊張して入る。
「いらっしゃい、一人ね、あっちのでいい?」
「構わないっす」
「はは、じゃあそこで、注文あったらベル鳴らしてね、見ての通り騒がしい店だから!」
給仕は愛想の良い娘さんで、この喧騒の中でも声がよく通る。
店に入ると人々の声の波で確かに店員を呼ぶ声なんてかき消されるだろう。
そんな中、リーンというベルの音は、不思議と喧騒の中でも良く目立つ。
メニューは店の真ん中の木板に大きく書かれている。
とにかくはまず、酒だな。
俺はベルを振る。すぐに先程の店員が来てくれた。
「エールとなにかオススメのつまみを」
「はいっおまちください」
店をふっと見渡すと、酒を持ちながら皆笑顔だ。
ああ、間違いない、この店はいい店だ。
店員も忙しそうだが、常に笑顔だ。
ここは笑顔が溢れている。
こういう店は、いい店で間違いない。
俺の予想は、キンキンに冷えたエールと共に大きな骨付き肉が出たことで確信へと変わる。
「うちの店と言ったらこれ、もち牛の肉、あっ、これが料理名ね。
それと凍る寸前まで冷やしたエール、熱々のオーブンから出したての肉に喰らいついて、やけどをエールで冷やすぐらいの覚悟でどーぞー!」
言われた通り、眼の前の肉はじゅうじゅうと表面の脂が湧いている。
南無三!!
俺は一気にかぶりついた。
ぶちり
肉が想像よりも遥かに簡単にちぎれた。
熱い、が、それ以上にこの弾力と噛むたびに溢れ出る灼熱の肉汁。
「んーーーー!!」
一気にエールを流し込む。キンキンに冷えたエールが燃えかけた口の中に広がり、余計に旨い!!
しかも、肉が負けていない!
苦みが旨味と絡み合って一つとなる。
肉の噛みごたえも、一瞬歯を押し返して、ぶつりと切れるこの小気味よさ、それと溢れる肉汁。エールの中で程よい温度に成ってさらに旨味がきちんと感じられる。
これは、絶品だ!! しかも、この2つが一緒になっているからこその逸品だ!!




