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48杯目 日課とか

「お待たせしました。ゲンツさんこちらをどうぞ」


「これは?」


 なにやら革袋を渡され、受け取るとずしりと重い。


「武具の修理費を抜いて、情報提供料の最低限予想の一時払い金になります。

 調査が終わって正確な金額が出たら差額をお支払いいたします」


 軽い気持ちで袋を確認すると、ぱっと見える場所に金貨が3枚ほど。それとそれなりの量の銀貨。


「こ、こんなに?」


「最低予想なので、たぶんもう一つくらい同じものが出るんじゃないかと考えていますよ?」


「ま、まじでか」


「ゲンツさんが確かめたことは今のギルドで知らなかった、しかも冒険者の命に直結する危険を孕んでいますから当然ですよ。全ての冒険者に関わる情報なんてそうはないですかね」


「そ、そうですか……いや、ありがたく」


「あと街の外へ出るのは申請していただければ可能ですので、いつでもご相談ください」


「そうなんですね、いや、それはありがたいです」


「それくらいのことをしたんですからもう少し誇ってもいいと思いますけど」


「ははは、あ、ありがとうございます」


 良かった、金の目処は立った。

 ただ、いくつか放置気味だった仕事を受けておいた。

 受付の人にシルバーがやるような仕事じゃないって言われてしまった。その人は上司から怒られていたが、まぁ、そうだな。ただ20年以上慣れ親しんだ街の困りごと解決の仕事、嫌いじゃない。

 もちろん、他の冒険者の仕事を上位の人間が奪うようなことにならないように依頼から時間が立っているものを選んでおく、俺、よそ者だしね。


 宿に戻って改めて立派な宿であることに気後れしてしまい、部屋に入ったらまた現実感が無くなった。しかし、利用できるものはありがたく使わせてもらう。


「くはー……何なんだろうな、お湯に浸かるだけでこの気持ちよさは……」


 身体をきちんと洗い、しかも石鹸も良いやつで泡立ちが違う、湯を張った中に浸かる。まるで貴族様にでもなったかのような振る舞いだ。

 そりゃみんな金持ちになると浴室を作りたがるわけだ。

 水浴びとはまるで満足度が違う。

 身体から疲れが湯に溶け出して行くような、なんとも心地の良い……


「冒険はしたいけど、こういう時間は欲しいなぁ……

 となると、湯を作れる魔道具と湯具かぁ、収納袋的には可能だなぁ……

 なんなら湯を沸かしてそれをしまっておけばいいか。

 待てよ、熱湯をしまっておいていざって時戦いに、って変なとこに出たら俺もあぶないじゃねーか、だめだだめだ、今回も劇物調味料攻撃失敗したし、あんなもの戦術に組み込んじゃ駄目だな、本当の本当にどうしようもなかったから仕方ないけど、それもただの運だったんだなぁ……」


 最近自分に起きたことを考えて、運がいいんだか悪いんだか頭が混乱してきたので風呂から出た。

 窓を開けると気持ちの良い風が吹いてくる。

 用意された上等な部屋着に着替えてベッドに横になると、その心地よさに気がつけば眠りに落ちていた……


「やべっ、寝すぎた」


 目を覚ますとすでに太陽が完全に姿を表していた。

 窓も開けっ放しでそのまま寝てしまった。


「やべやべ、いそげいそげ」


 ギルドへの出頭時間は昼過ぎだが、時間が有る日のルーティーンをするために急いで着替える。

 そして、知らない街を走り出す。


 人が多いのがそれもまた一つの修行だと避けながら走る。

 そして緑の豊かな公園を見つけてそこにはいる。


「くぅー、固まってるなぁー」


 それからは入念なストレッチをする。

 とにかくこの年になると身体のメンテナンスには気をつけている。

 予定のない日は軽く走って、そして徹底的に身体をほぐすことにしている。

 1・2時間くらいかけてじっくりと行う。

 ここのところ時間が取れなかったので、今日はしっかり2時間コースで行うつもりだ。


「かぁーーー伸びるぅーーー」


 格が上がって身体も変化して、ガッチガチな身体が若い頃のように充実している。

以前よりも身体の可動域は広がり、関節の軋みもない。

 それでも、本当の10代20代だった頃の身体ほどではないわけだ。

 細やかなメンテナンスはおっさん冒険者の義務だろう。 


「酒が残らないだけでも、感謝感謝っと」


 こうやってゆっくりと自分の体と会話をすると、自分の肉体の変化がよく分かる。筋肉の質、関節の強度、動きの反応全てが別世界だ。

 実践でそれらのズレは修正されていたが、こうやって深くまで自分の身体と語り合う時間は好きだ。

 全身をたっぷりと緩めた座して目を閉じ深く呼吸をする。

 自らの内面、心と向き合い、世界から自らを遠ざけていく、いや、一体化させていくのか、とにかく思考をすて精神と向き合う……


 カーンカーンカーン


「ふぅ……」


 約束の時間が近づいたことを告げる鐘の音で意識を戻していく。

 ストレッチで身体を整えて、瞑想で精神を整えていく。

 この日課と言うか習慣は俺の心と体を整わせる大事な行動だ。


「さて、行くか」


 身体が軽くなり、心が落ち着いている。

 気力体力が本当の意味で回復したことを実感した。


 ギルドでの話は新たに報告されたこととのすり合わせなどを中心に、また一通りの流れや、上位進化の事細かい話などを繰り返し話すことになり、せっかく整えた身体と心が固まってしまったような、そんな時間になってしまった……

 

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