↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/157

49杯目 街の依頼

 ギルドから開放されて夕方前、俺は依頼を片付けに行く。

 冒険者への依頼は多岐にわたるし、街の便利屋のように仕事を頼む人も多い。

 加護による力を利用した荷物運びや倉庫整理、建築の手伝いから、普通に掃除洗濯などの家事を頼む人もいる。

 俺もこういう依頼はたくさんこなしている。

 命をかけずにお金を安定して得られるということに合わせて、何と言っても依頼者から直接感謝されるということは、冒険者という生き方を選ぶと中々に得られないことで、冒険者なんて汚れ仕事をしていても、自分は生きていても良いんだと思わせてくれる。

 大量の荷物が詰め込まれた倉庫から全部荷物を出して整理し、そこを建て直して孫夫婦が住むのだと笑顔で話してくれた老夫婦。

 整理整頓が出来ないから部屋が無茶苦茶になってしまい、全ての物を外に出し清掃してスッキリした部屋に涙する商人。

 そういった人間とのふれあいが俺を人間として社会に属していることを思い出させてくれる。

 依頼をすべて終えるとすっかりと日が暮れていた。

 稼げる額は少ないが、以前よりも遥かに早く依頼をこなせることが知れた。


「さて、今日の出会いはどうかな?」


 昨日はとても素晴らしい出会いがあった。

 俺はウキウキとまた裏路地へと歩き出す。


 毎日多くの人がこの場所で笑顔になり、そして明日への活力を満たしていく。

 そういう光景を見るだけで俺は幸せを感じる。

 今日も気の向くまま店に入る。

 扉を開けるとムワッとした熱気が俺の顔に当たる。

 料理の複雑な香りが俺を包み込む。

 更に興奮と期待感が増す。

 

「いらっしゃいませー! こちらにどうぞー!」


 ここも店員の元気がいい。当たりだな。

 客と店員が元気で明るい店はまず大丈夫。

 今日の勝利を確信しちゃうレベルだぜ!


「エールとおすすめをいくつかお願いします」


「お腹は空いてますか?」


「はい、でもがっつり食事よりつまみ寄りが嬉しいです」


「わっかりましたー!」


 そしてすぐにエールが運ばれてきた。

 とりあえず、労働の疲れをいたわる。

 エールはよく冷えていて苦みが弱く香りが強いタイプだ。

 だが、よく冷えていて喉越しも良い。

 ついつい一気に煽ってしまう。


「すみませんおかわりー!」


「はーい! 少々お待ち下さいー!」


 おかわりは料理とともに現れた。


「お待ちどおさまぁー、茹で青海老とキャベツーのサラダになります」


 青海老は真っ青な海老だが茹でると黄色くなる不思議な海老だ。

 緑のキャベツーと黄色い身が可愛い花みたいに見える、ドレッシングは多分人参をすりつぶしたものがベースなために赤い小さな花が散りばめられているようで目に楽しい料理に出来上がっている。

 

「おおっ、思ったよりしっかりとした味付け」


 見た目通りに爽やかな味なのかと思ったら結構強めの味付けがキャベツー自体にされており、ドレッシングがむしろ優しい味わい、ただ、そのせいでドレッシングの甘みや海老の風味をしっかりと感じることが出来る。組み合わせを変えると味わいが変わって面白い。ちゃんとしたお酒のツマミとして成立している。


「お待たせしましたアジーの油煮になります!

 器が熱いので気をつけてくださいね!」


 じゅうじゅうと脂の中で魚の身が音を立てている。

 油の中には香味野菜や付け合せの野菜も見える。

 皿に取り上げて軽く冷まして一口。


「うっまっ!」


 表面はカリッとしているのに、中はジューシー。

 香ばしい油に入っている野菜たちの風味が単純な塩味を複雑にしている。

 それでも主役はアジーだ。風味と塩味だけにしてソースとかにしない理由がわかる。本来さっぱりとした味わいなアジーだが、油で煮ることで濃厚でジューシーな味わいに生れ変っている。失礼な話食べる前は大衆魚であるアジーの普通な焼き物を想定していたので、いい意味で裏切られた!


「これ、好きだ。よし、おねーさん、もう一杯エール!」


 これは、エールよな。

 間違いない。

 なるほど、この店は魚介類を美味く活かす店だ。

 であれば、あっという間に飲み干してしまったエールの代わりは決まった。


「白ワインください」


「お客さん結構食べるし飲むならおすすめ最後にちょっと多めの出しても平気?」


「全然平気」


「ちょっとまっててね」


 白ワインはすぐに出された。

 最後の海老を食べ、ワインを味わう。

 おお、ぐっと高級な組み合わせに変身するな!

 白ワインの柑橘系のさわやかさとぷりっとした海老の風味が合わさりより味の輪郭がはっきりする。エールと合わせるとさっくりといくらでも食べられてしまうが、こうして白ワインと出会うと前菜というよりメインの味わいになってくる。

 そして油煮だ。


「おお、これはこれは……」


 もともと豊かな風味を蓄えた油がさっぱりとしたワインと化学反応を起こしてまた一つ高みへとたどり着いている。ぎゅっと詰まった魚介の味わいが一段とリッチな物へと昇華され、そして爽やかに消えていく……

 飲み物を変えるだけでここまで食事の顔が変わる。

 まるで早朝の町並みと夜の町並みの変化のようだ。

 この組み合わせを考えるだけでも、やはり食事の奥深さと言えるだろう……


 素晴らしい出会いに感動していると、どんっとメイン料理が提供された。


「スズキーのアクアパッツァ西国風だよっ!」


「なんていい香りだ!」


 思わず声が出た、スパイスの香りをぶつけられたようで、ブワッと唾液が溢れてきた。色とりどりの野菜と中央にどんっと存在する魚、迫力がある。

 身を取るとホロホロと柔らかい、そのまま口に放り込むと……


「ほふほふ」


 熱いが、旨い!!

 味付けは塩でシンプルだが、このスパイスが魚の旨味を引き出し臭みを完全に消し去って。


「うんめぇ~~~~!」


 周りの客が俺の食べているのを見て注文している。

 いや、これ、うめぇ!!

 魚介を出す店は前の町にも有ったが、このスパイスの使い方は初めて出会う。

 西国、砂漠の街のスパイスか。

 肉料理と合わせて食べたことは有ったが、魚とも合うんだな。

 これは、白ワインと合うのか……?


「合うー!」


 白ワインと西国の香辛料、異なった文化が混ざり合い、その中を魚が泳いでいる!

 スパイスの香りと柑橘のワイン、そこに魚介の味わい。

 辛味と酸味と旨味が口の中でダンスを踊るように激しく暴れ出すようだ。

 これは、完敗だよ……

 今日も最高すぎる……


 この日も、最高の夜を過ごして、部屋へと戻ることに成功した。

 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。