41杯目 対峙
街はすっかり焼け落ちている。
俺はそのまま駆け抜けるだけだが、とりあえず、コボルトの軍勢を処置できたことだけでも一つの成果と言えるだろう……
だが、今俺のすぐ後ろにその軍勢をも超えるかも知れない魔獣がいる!
開けた場所に出たので後ろを向くと、4つ足で駆ける獣がピッタリと俺に着いてきていた……
「うおおおおっ!!」
獣道を爆走する。
俺は道を知っているから躊躇なく進めているが、少しは速度を落としてくれているという淡い期待に賭けて、とにかく全力疾走。
森を抜けて、街道に出る前の草原地帯、そこで追われていたら、決断しなければいけない。息は上がって足も重い、だが、思考は冷静になっていく。死神の鎌が俺の首元で準備を開始している気配を感じているような寒気に似た感覚、明確な死の予感。
ブワッと漆黒の闇が晴れ、星あかりに薄く照らされた草原へ出る。
ソレは同時に、俺の運命を決める瞬間の訪れを告げている。
そして、俺が草原に出た本の少しあと、死神が森から飛び出してきた。
ああ、やるしかないんだな、本当に。
俺は、ついに、走るのをやめた。
「まだっ、諦めてはいないけどな!!」
俺は最後の木材に火をつけて周囲にばらまく。
星あかりがあるとはいえ、あの魔獣の動きを捉えるには明るさが必要だ。
そして、魔獣は俺が燃え盛る木々をばらまいたのを見て、少し距離を取って駆けるのを止めてくれた。このまま突っ込まれて襲われることを恐れていたので、助かった。
【ツイニ、アキラメタカ……
キサマ、シブトイナ、キライデハナイ。
ニンゲンハスグニアキラメルトリカイシテイタガ、コウイウヤツモイルノダナ】
「まだ、諦めてないけどな」
【ハジメハイカリシカカンジナカッタガ、イマデハカンシンシテイル。
ヨワキモノガ、チエヲツカッテ、ヒッシナノダナ】
「そう思うなら見逃してくれても良いんだぜ?」
【ダメダナ、オマエハ、キケンダ。
ソシテ、ニンゲンハムレルトキケンダ。
コロスッ!!】
バッ!! と土煙があがる。
短距離の瞬発力は、やはりとんでもないっ!
紙一重で敵の攻撃を躱す……
息つく暇もなく敵の鋭い爪による斬撃が襲いかかるっ!
猪突でその攻撃を弾く、弾く、弾く!
「……ん?」
おかしいな、こいつの攻撃、こんなに軽かったか?
攻撃を受けても猪突を弾き飛ばされるような重さは感じないし、全体的な速度も落ちている気がする。
しかも、攻撃が直線的というか、雑な気がする。
はじめの時みたいに左右に瞬時に移動して死角を攻めるような攻撃ではなく、ただ正面から腕を振り回しているような攻撃しかしてこない。
罠か?
しかし、明らかに鈍い雑な大ぶりを出してきたので、猪突で叩き落とすように払って、そのまま相手の力を利用して回転、猪突をぶん回すっ!
ガッ!!
40点! まだまだ上手く力を乗せられていない、流石に簡単に防がれてしまったが、なぜか魔獣は大きく態勢を崩した。
なんだ?
何が起きている……?
この程度の攻撃を簡単に防ぎそうなものだが、そこまで上手く相手の力を乗せられた感覚もなかったし……
【オ、オノレッ!! コシャ、コシャクナッ!! ハァハァ】
炎に照らされた魔獣の姿をよく見れば、肩で息をして、呼吸も早く、少し足を引きずっている……
こいつ、バテているな!?
産まれたてで、いや、生まれたてから今まで、休むこと無く動き続け、最後は俺との持久走、短距離の高速戦闘を得意とするワーウルフ、その進化したグレートワーウルフも瞬発力と速度は凄いけど、体力と持久力はそれほど高くないのかも知れないっ! 楽観視はしないが、光が見えてきた。
【シネェッ!!】
ギィン!! 爪と猪突が交差するっ!
それでもその突撃力は全く油断できるものではない、スピードにパワーをかけ合わせた一撃は、猪突の持つ手をビリビリと痺れさせる強烈な威力を誇っている。
敵は疲労していても格上、油断はできない!
振り回すだけの攻撃だろうが、直撃すれば骨を砕いて肉を穿つ、それに、俺だって身体は重く、疲労は間違いなく大きい、猪突猛進がなければ今頃地面に大の字に倒れ込んでいただろう。ありがとう、相棒! 今この瞬間も相棒の手助けを感じている!
となれば取るべき戦術は一つ。
持久戦だ。
敵の攻撃を受け、敵に休む隙を与えずに攻撃をする。
ここからは、根比べだっ!
【シネッ! イイカゲン、シネッ!!】
「やだねっ! 俺は、まだ、何の冒険もしてないんだっ!!」
距離を取って休まれるわけには行かない、距離を詰めてインファイトを継続して行っていく、敵の攻撃をうまく利用し、こちらの力をできる限り抑えて、リスクは取らない、どこまでも冷静に、距離を取ろうと離れる敵にぴったりとついて、しつこくしつこく嫌がらせのような攻撃を、それでも、本気で力をいれていかなければ敵も相手をしてこなくなる。亀のように守られても、俺にそれを破る攻撃力はなさそうだし、敵にも適度に攻撃をさせるように立ち回る……これ、身体も頭も継続的に使い続ける、実に辛い戦い方だった。
それから、命がけの、大変地味な戦いを続けることになった。
これが、想像の遥か上にきつかった……




