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もう、全部、バレてる……

 支配人は、あたしを休憩室のソファに座らせた。


 向かい合った小さい肘掛け椅子におさまり、あたしをじっと見つめる。


「……さて。どういうことか、説明してくれないかね」


「ど、どういうこととは……」


 何を話したらいいのか。

 何を隠したらいいのか。

 そもそもどんな嘘をつけばいいのか……もう、頭が回らない。


 疑われたら、即、命の危機だ。


 あたしの困惑をどうとったか、支配人が口を開く。


「もちろん、さっきのゴブリンのことだよ。

 君はあれを隠そうとした——ということは、君と関係あるんだろう?

 それにこう言っては悪いが、君のその耳だってそうだ。

 今日はうまく隠れているけど——髪型で誤魔化しているだけじゃないだろう。

 昨日の耳のサイズは、髪の毛だけじゃ隠しおおせるものじゃなかった。

 ——さっきのゴブリンの助けを得ているのだろう?」


 ——この人、すべてお見通しなの?


 まさか、あたしがい聖女に選ばれたナギだとは……いくらなんでもわかるはずはない……わよ、ね……


 ここで、下手なことを言うわけにはいかないのだ。



「支……支配人は、何をご存知なんですか?」


 明らかに、脛に傷持つものの言い方をしてしまった。


 でも、他に言いようがない。



「ふっ……そうだよな。まあ、いきなり何もかもは話せないよなぁ」


 そして、続ける。


「いいだろう……私が知っているのは、見たこと、聞いたこと。そして現状からの推測にすぎないが」


「推測……」


 じゃあ、大したことは知らないってこと……なの?


「実はこれでも若い頃は、探偵まがいの仕事をしていてね。

 あの頃はこの国も、政治的に不安定だったから……仕事にも事欠かなかったわけさ。

 だから、けっこう鼻は利くんだよ」


 ……穏やかじゃない。

 鼻が利くって……

 何を言いたいんだろう。


「ズバリきみ、例の聖女とモンスターの話、何か知ってるんだろう?」


「えっ」


「しかも相当詳しく、だ」


 またも、眩暈がする。


 褐色の肌だって、血の気が引けば目に見える。


 眩暈がするほど血が引いたなら、支配人は気付いたに違いない。


「私の推測……いや、推理はこうだ。

 ……今現在、世間を騒がせているようなことは一つしかない。

 この、聖女とモンスターの件だ。他に殺人があっただの、山賊が出ただの、きな臭い話は一切ない。

 平和な時だよ……」


 確かに、そうなのだろう。

 酒場にいると色々な情報が聞こえてくる。


 皆の話は、一般的なモンスター狩りの話か、自慢話か——聖女とモンスターの件。


「で、こんな時に怪しいそぶりを見せる人間は、疑われるのが普通だ。

 ——『あの件に関わってるんじゃないか』ってね。


 これが国の反対側で起こったことならまだしも、特にこのあたりは、聖女様のふもと村からさほど離れてはいないし……。

 護衛隊長は、同行者が翼に怪我をしていると言っていたから、そう遠くへは行けないはずだ」


 聞きながら、もう目の前が真っ暗だった。


 もう聞きたくない……。


「そして君は——誰も気づいてないと思っているだろうけど、酒場でその話が出るたびに、耳をそばだてていたね。


 しかも昨日は聖女探しの護衛兵たちを見て、哀れを誘うほど怯えていた。


 今日は今日で、ゴブリンと知り合いらしいとわかるしさ。君自身、その耳——」


 あたしは返す言葉もなく、言葉を待つ。


「普通、ゴブリンというものはゴブリンだ。もともとゴブリンの耳が生えている。そして、人間というものは人間でしかない。どちらも成長途中で耳の形が他種族のものに変わってきたりはしない」


 そんなあたしを細目で凝視し、彼は短く刈ったあごひげを撫でながら続ける。


「ゴブリンにせよ、人間にせよ。姿が変わってくるというのは、何か——何か自然ではない力が作用している、ということだろう」


「自然ではない——」


「ああ。昨日、護衛隊長に、同行者の翼について尋ねてみたんだよ。

 だってそうだろう? 似顔絵は人間なのに、翼があるなんて、どういうことかと思うよ。

 そんな種族、親指くらいの大きさの妖精族くらいだからね。

 そしたらやはり、例の事件では術師がいて、青年の翼はその術の副産物だと言っていたよ。

 自然ではない力、つまり魔術が働いたんだ。

 ということは——」


 そこまで言って言葉を切り、あたしの耳を見つめる。


「…………」


 ということは——。


 支配人はその続きを言わなかった。


「ほらね。私は鼻が利くと言ったろう——君、話を聞いていて青ざめたり震えたり、本当にわかりやすいよね」


「…………」

 

 もう、口を聞く勇気もない。


 彼の話の先を聞いたからって、どうなるというのだろう。


 多分、あたしの正体はもう見当をつけているのだろう……。


 もう、逃げるしかない。今すぐに。


 何もかもうっちゃって、今すぐ逃げるしか!


 ところが支配人は言ったのだった——


「別に、今すぐ逃げる必要はないよ。部屋に、誰か匿ってるんだろう——怪我をしていて、あまり動かさないほうがいい、誰かを」


 あたし、どれだけ顔に出しちゃってるのよ、もう!!!




続く

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