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この青年にも、かなりバレちゃってるの……?

 支配人は、立ち上がった。


「……君、ひどい顔色だよ。落ち着くまで、ちょっとここで休んでいなさい。

 ——昼食の客が捌けたら、夕食どきまでのあいだ部屋で休んできていいから」


「……あの、ただちょっと眩暈がするだけで……」


 支配人は何か言おうと試みるあたしを残し、店に行ってしまった。


 あたしは深呼吸した。


 支配人は、ほぼそのものズバリの推理を、あたしに披露しちゃってくれた。


 何にも返事はしなかった——肯定も否定も、しなかったけど。


 そうよ。——まず、何か言う余裕がなかった。


 いまさら支配人の推理を否定して、信じてもらえるだろうか。

 ……完全に、というのは無理だろう。彼は自分の鼻に相当自信があるようだし。


 その推理とやらに従って、もし支配人が護衛兵を呼んだら。

 あたし、すべてをごまかして、隠し通せるだろうか。

 ……不可能とは言わない——でも、明らかに疑ってかかる人間達を、騙しきる自信はない。

 術師なんかまた連れてこられたら、多分、ゴブリン子ちゃんの魔法陣だって……。


 ——ごまかしてここに残るのは、難しい。


 でも、逃げるなら。


 逃げるなら、支配人の推理を——あたしたちが例の件に関わっていると、肯定することになる。


 やっぱりすぐ追手がかかって——


 今ではあたしの顔——ゴブリン顔も、割れているから。


 逃げるのも、前よりもっと難しいだろう。


 本当のところ支配人は、いったいどういうつもりなんだろう……


 やっぱり、『逃げる必要はないよ』なんて安心させておいて……時間稼ぎをしている、と考えるのが妥当だろう。


 時間稼ぎ——護衛兵にあたしたちのことを知らせ、彼らがやって来るまでの間の。


 もしかしたら、今にも護衛兵に知らせる段取りをつけているかも……!!


 ——すぐに逃げなきゃ。


 ヒナたちに話さなきゃ。今すぐに!


 こんなところで休んでないで、部屋に戻ろう。


 ——あ、そういえばゴブリン子ちゃんを酒場に置いてきちゃった。


 無事、外に出てくれたかしら?


 逃げるとなったら、いろいろゴブリン子ちゃんに助けてもらわなきゃ。

 


 部屋に向かおうとすると、休憩室のドアから今度はあの青年が入ってきた。


 外に出ようとしたあたしと、危うくぶつかりそうになる。


「やあ。支配人と話し終わったみたいだったから。ちょっと失礼するよ」



 って、ここ、部外者立ち入り禁止なんだけど!



 青年は、早速切り出す。


「僕は聖女を探していると言ったけど……君、僕の言葉を疑っているでしょう」


 そりゃそうよ。


 というか、今のあたしは誰も彼も疑ってかからなければならないのだけれど。


 ていうか、この人と話してるヒマはないのよ!


「すみません、あたし、今すごく急いでるんです。話は明日にでも——」


 そんな明日はやってこないけどね。逃げるから。


「君、さっきのあのゴブリンとどんな関係なの?」


「え————」


 何を知りたいんだ、この人は。


「言いたくない? ——でも、さっき酒場で君のこと……君たちのこと、助けてあげたよね?」


 助けてくれと頼んだ覚えはないわよ! ——結果的にあの場はおかげで無事切り抜けられたけど。


 でも。


 そんなことで、自分たちの身を危険に晒すわけにはいかないもの。


「何が知りたいんですか? …あなたが聖女を探してるのと、あたしがゴブリンと知り合いかもしれないことと、どう関係があるんですか? ……本当に申し訳ないんですが、あたし、今本当に本当に急いでるんです」


 とにかく、なんとか怪しまれないように逃げるしかない。


 青年はあたしの言葉に構わず続ける。

 

「……さっきの、あのゴブリンだけど。あのゴブリン、もしや——」


 と。


 休憩室に、ふわっと百合の甘い香りが漂った。


 ゴブリン子ちゃん、来たんだわ。


 でも青年がいるせいだろう、姿は隠したままだ。


 お願いだから、そのまま大人しくしていて!


 ところが、青年は言ったのだった。


「この香り……来たね、あのゴブリン」


「!!!」


 匂い……。


 それだけで、どうして分かったの!? 


 この人、一体何を知ってるっていうの!?


 ——もう、何もかも、あたしの貧しい脳みそじゃ対処しきれないわよ——!!

 

 早く逃げなきゃいけないのに!



続く

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