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ep.9 秘密組織の次は、軍事力で勝ちに行こう!

 その様子を見て、校長は満足そうに続けた。


「実は、カイロ=ニーギョという人物は存在しない」


――は?


「この学校を創ったのは、この紫の国の王太子殿下だ。カイロ=ニーギョは存在しない影武者だ。


お前たちに食事と教育の機会を与えたのは、王太子殿下なんだよ」


――なんだって!? 校長、何を言ってるんだ!?


 俺たち生徒はどよめいたが、校長は構わずに続けた。


「王太子殿下は優秀な人材を選抜し、赤紫の月影の人員にしたいと考えた。


赤紫の月影とは、王太子殿下直属の秘密組織だ。組織には、商会部門、商品開発部門、農業部門、医療部門がある。


入学4年目の今期は、どの部門に入るか選んでもらう。例えば、商売がしたいなら商会学科に行きなさい。


今期は幅広く学ぶのではなく、専科で専門的に学んでもらう。


魅力的な商品が作りたい者は商品開発学科に、食料の研究開発がしたい者は農業学科に、医者になりたい者は医療学科へ行きなさい。


卒業後、君たちはそれぞれの部門に入るのだ!」


――それ、秘密組織なのか……? 意外と普通だな。


「赤紫の月影のことは、口外厳禁だ。口外すると、厳罰に処されるからな」


――うわ……怖。厳罰って何?


 そこで、俺は恐ろしいことに気づいた。


 王太子は今年で13歳になると聞いている。つまり、俺が入学したときは、たったの9歳だ。


――9歳の子どもが、この学校と仕組みを考えついたのか!?


◇◇◇ 

 俺は商会学科に進学した。そして、経営のいろはを徹底的に身につけた。


 一年が経ち、俺たちは卒業することになった。


 さらに、ニーギョ学校は全て閉校することが決定した。   


 卒業と同時に、俺はレッドムーン商会という商会を立ち上げて、そこの代表になるように校長から命じられた。


 商品開発部門と連携して商品を作り、商品が完成したらレッドムーン商会は本格始動するのだ。


 卒業式の前日、俺たち商会学科の生徒は校長室に呼び出された。


 入室すると、赤紫の髪と金色の瞳を持つ少年と、赤髪に青い瞳を持つ美男がソファに座っていた。


 少年は好奇心に満ちた瞳で、男の方は値踏みするような目で俺たちを見ていた。


 校長はソファの脇に立っていた。


――あの二人、誰だろう?


 不思議に思っていると、校長がいつもより厳しい声で言った。


「こちらのお二人は、王太子コラン=パープル殿下と宰相のリドル=ユゴー侯爵でいらっしゃるぞ」


――は!? まじで!? 突っ立てる場合じゃなくね!?


「王太子殿下と宰相に挨拶いたします!」


 俺たちは一斉にその場に跪いた。


 すると、王太子は笑顔でひらりと手を振った。


「そんなに堅苦しくしないでくれ。今日まで勉強をよく頑張ったな。貧しい中で、勉学と生活の両立は大変だっただろう」


「……全ては王太子様のおかげです。教育の機会と食事を与えられなかったら、俺たちは今でも貧困に苦しんでいました」


 俺の隣の青年がそう言うと、王太子は笑顔で頷いた。


「そうか……。色々話が聞きたいな。まあ、かけてくれ」


 俺たちが緊張しながらソファに座ると、王太子はこれまでの境遇などを色々質問してきた。


 彼は真剣な顔で聞いていた。


「大変だったんだな。これからはな、貧しさで埋もれた才能を大いに発揮してくれ。誰もが欲しがるような素晴らしい商品を作って欲しい」


――王太子様って、なんて優しい方なんだ……!


 俺は彼の笑顔にくらりときた。


 高貴な生まれでありながら、威圧することもなく、気取らずに話してくれる。


 何より、自分を貧困から救ってくださった方だ。


――王太子様のためにも、一生懸命働こう! レッドムーン商会を世界一の商会にするぞ!


 この日、俺はそう誓ったのだ。


◇◇◇ 

 時は遡り、ニーギョ学校ができる一年前、王太子宮の一室にて――。


「リドル! 素晴らしいアイディアを思いついた! 秘密組織を作るぞ! 組織名は、赤紫の月影だな!」


「……は? 秘密組織? 何のお遊びですか?」


 私は9歳の王太子――コラン=パープルをまじまじと見つめた。


「お遊びじゃないっての! 聞けって! あのな、王城には、忠誠心のない奸臣が多すぎる!」


「九歳でそれにお気づきとは……。なかなか鋭いですね」


 私は素直に感心した。すると、コラン様は瞳をきらりと光らせた。 


「だからな、忠誠心が高い王太子直属の組織を作るんだよ! それが、赤紫の月影!」


「……どうやって忠誠心を高めるのですか?」


「決まってんだろ! 貴族たちの息がかかってない連中を、恩で縛るんだよ! 


具体的にはな、エリートな商人・商品開発・農作物開発・医師集団を作るんだ!」


「……は?」


「才能があり頭も良いが、お金がなく学べない者を集めるんだ! 俺は彼らに、教育の場と研究資金を提供して、恩で縛る。それで忠誠獲得だ!」 


「……なるほど。貧困から抜け出せるなら、対価として忠誠を獲得できるかも」


「経済は権力の要。農業は生きていくために必要! 


虫とか飢饉に強い農作物を品種改良で作らせるんだ!


医師集団は、要人の元へ派遣して恩を売れるぞ? 


商品開発部門では、肌や髪を綺麗にする薬などを作れば、権力者の妻たちに取り入ることができるな。」


 「考えましたね」


 私は感心してため息をついた。本気で評価していた。


「それに、優秀な医師は、自分を守るために必要だ。毒を盛られたとしても、助かる確率が上がる。王城は毒殺上等だからな。死んだら、そもそも権力サバイバルできないし」


 私は思わず吹き出してしまった。


「リドル! 学校を作るぞ! 勉強に集中できるように、朝昼晩栄養のある給食を出せ! 


ただし、テストに落ちたら退学だ! 俺が欲しいのは即戦力。精鋭の天才だけだ」


「かしこまりました。私が教師もシラバスの用意もいたしましょう」


「頼んだよ。そうだ! 学校創設者の名前は、カイロ=ニーギョにしよう。ニーギョは革新者って意味さ。


ひとまず、赤紫の月影の代表もカイロにする。俺が創設者ってバレるとまずいからな。カイロは影武者だ」


――わずか9歳でこのようなことを思いつくとは……。やはり、コラン様が次期国王に相応しい。


 一生お支えしよう。私はこのとき、決意を新たにした。


◇◇◇ 

「それで、医療部門が最近は大活躍してますよ! ほら、研究と治療を行うパープルムーン病院を設立して、卒業生を働かせているでしょう? 


難病の新薬開発と貴族への往診で、卒業生の医師たちの地位も評価も鰻登りです!」


 ターコイズは俺に、赤紫の月影の近況を色々と詳しく報告してくれた。


「そうかそうか。皆、よくやってくれてるな」


「開発した新薬は、レッドムーン商会が全て買い取りました。販売権は商会のものですからね。これで、難病に悩んでいる権力者に恩が売れますよ」


「いいね。難病の名前は?」


「一つ目の新薬は、物忘れや記憶障害を引き起こす、アレツラハイマー病です。」


「ナイスだ! 隠居してる前グリー公爵夫妻がその病で悩まされてるって社交界で聞いた。これで、グリー公爵家に恩が売れるぞ……」


 俺が言いかけたときだった。


――バンッ!


 扉を勢いよく開けて、リドルが部屋に駆けこんできた。


「大変です! コラン様!」


「なんだ? そんなに慌てて?」


 ターコイズは即座に立ち上がると、リドルに一礼した。しかし、リドルはターコイズに会釈だけして、早口で俺にまくしたてた。


「隣国の赤の国に、モンスターたちが大群で攻めてきました! あの国は頻繁に侵攻されてますが……。今回の規模は異常です!」


「……何体で攻めてきてる?」


 赤の国は、モンスターの国に隣接する国だ。


 モンスターたちは土地を奪おうと、頻繁に赤の国に侵攻している。


 ちなみに、紫の国とモンスターの国の間に赤の国があるので、紫の国にモンスターが侵攻してくることはない。


 赤の国は紫の国にとって、地理的な砦になっているのだ。しかし、赤の国が陥落すれば、紫の国も無事では済まない。


「報告だと、モンスター先鋒部隊だけで3万体。赤の国の辺境伯騎士団たちが、ひとまず応戦しています! 我が国からも援軍を送ることが決定しました!」


――まじか……。これは、チャンスだ!


「……そうか。リドル、俺は言ったな? レディネットワークの次は食糧を掌握すると……」


「ええ。そうおっしゃいました」


「だがな、止めだ」


「……は?」


 リドルとターコイズが同時に目を見開いた。


 俺はにやりと笑った。


「まずは、軍事力で勝ちに行こう!」


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