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ep.25 貴族を巻き込んで、署名活動開始!

「何!? シエン……いや、コランお兄さまが!?」


 俺は飛び起きた。すると女官はやんわりと微笑んだ。


「まずは身支度を整えましょう。寝ていらっしゃったので、髪を結って差し上げます。着替えもしましょう。ああ! 香油も塗らなくては!」


――出たよ! 女の身支度! まじでめんどくさい! 早く謁見させてくれ!


 俺は頬を膨らませて仏頂面になった。

 

◇◇◇ 

「久しぶりだな。コランお兄さま。女暮らしはどうだ? 不自由していませんか?」


 謁見室から官僚たちを下がらせた瞬間、シエンは楽しそうに笑い出した。


「ふざけんなよシエン! 結婚は自分で決められないし、コルセットやハイヒールを履かなきゃいけないし、身支度は大変だし、暇だし、最悪の気分だっつーの!」


 俺が怒鳴ると、シエンはむしろ嬉しそうに笑った。


「そうか。女の苦しみを理解してくれて何よりだよ。ついこの前まで男に生まれて幸せだったな。アハハハッ」


「クソ野郎! 俺に体を返しな!」


「嫌よ! 男の体は最高よ。体力はあるし、男には決定権があるわ! 返すわけないでしょ!」


「そうかよ。でもな、俺は赤の国の英雄でドラゴン使い、しかも大公妃なんだ。今後は丁重に扱ってもらおうか?」


 俺が冷たく笑うと、少しだけシエンの顔が曇った。


――よっし! 俺がここまで活躍するなんて、やっぱり思ってなかったみたいだな!


「英雄大公妃から進言だ。コルセットとハイヒールの着用義務を廃止しな。宴と式典の度につけさせられて、たまったものじゃないね」


「は? 私は今は男だ。痛いのは女の事情だろ? 私には関係ない話だ。廃止はしない」


「なんだって!?」


「男の私にはな、女の苦しみなんて知ったことか。コルセットをつけるのもハイヒールを履くのも女だ。私には関係ない。だって、男だから」


「何言ってんだよ! 女たちが可哀想だろ! 俺だって我慢してんだぞ!」


「そうだ。私だって我慢してたわ。でも、コランお兄さまは女になるまで、コルセットやハイヒールが痛いって知ってても廃止しなかったじゃない?」


 俺が詰まると、シエンは勝ち誇ったように続けた。


「私はコランお兄さまと同じで、廃止してないわ。同じことをしてるのに、なんで私だけ責められるの? 


お兄さまだって、関係ないから無関心だっただけよ。コルセットやハイヒールで美しく矯正された女性を見て楽しむ側だったものね?」


「……確かに、無関心だったよ。でも、今は違う!」


「うるさいわね! 私は国王よ! 王女だろうが大公妃だろうが、所詮はあんたは女なのよ! 黙ってなさい!」


「……くっ! なんて奴だ! お前は最低だ!」


「はあ? 私が最低? 知らないの? 女が意見すると、大体こう言われるのよ。女のくせに意見すんなってね。私は他の男と同じことをしてるだけよ」


「そうかよ! シエンと議論しても無駄だな」


――今に見てろよ! シエンがコルセットとハイヒールを改革しないなら、俺が改革してやる!


 俺は心の中でにやりと笑った。素晴らしいアイディアを思いついたからだ。


「で、シエンが俺を呼び出した用件はなんなんだよ?」


 俺が聞くと、シエンは不愉快そうに目を逸らした。


「2つある。1つ目はな、赤の国で、お前が特別司令官になることが決定した。


特別司令官の権限は、


・いつでも国境を越えられること。


・非常時の際の魔法連絡石による辺境伯騎士団・王城騎士団との連携。


・単独・独断での火炎の使用だ」


――よっしゃあ! 赤の国でポストを獲得だ!


「すでに赤の女王の王印入りの任命書が届いている。これからはな、毎月1日は赤の王城騎士団との軍事訓練に参加するようにとのことだ。


もちろん、火竜とコランが一緒に参加だ。それと、赤の国に行くときと帰る際は、火竜を使って構わないそうだ」


――まじかよ! これで暇から若干解放されるな!


 軍事訓練に参加できる。それがこんなにも嬉しいとは。


 俺は心の中でガッツポーズを決めた。


「というわけで、7月1日になったら、赤の国に行けよ。6月27日に火竜と出発すれば余裕で着くだろ。赤の国では王城の貴賓室に滞在していいらしいし」


「やったぜ! 見たかシエン! 国王だろうと外国の特別司令官でドラゴン使いにはなれないよ!」


「そうか。だが私は国王として、紫の国の軍事指揮権を持っている」


 シエンの淡々とした声に、俺は少しむっとした。


「……それで、2つ目ってのはなんなんだよ?」


「青の国の国王からな、シエン大公妃宛に、招待状が届いてるよ」


「……青の国王から? なんで? シエンお前、王女時代に青の国王と接点あったか?」


「挨拶くらいしかないな。招待の理由は火竜だよ」


「ファイアが?」


「そうだ。火竜は初代青の王フェル=ユースの契約ドラゴンだったんだろ? 


青の王は、ドラゴンとその契約者のお前にぜひ会いたいそうだ。大公妃として、大公と火竜と一緒に青の城に来てほしいらしい。


日時は7月30日だ。青の国へは陸路で10日あれば着くからな。20日に馬車で出発しろ。大公とは現地集合だ」


「アーガスト大公はもう承諾したのか?」


「そうだ。さっき連絡石で連絡があった。話は以上だ」


◇◇◇ 

「ってわけで、思い出のフェルの子孫に会えるぞ。良かったな、ファイア!」


 王女宮に戻り、俺がファイアに事の顛末を話すと、ファイアは喜――ばなかった。


「フェルはフェルだ。子孫はフェルの血は引いていても、フェルじゃない。現青の王には別に会いたくない。興味ない」


「そんなに冷たい顔すんなって。でも、青の王からの招待なんて最高だ! ぜひ一緒に来てくれ!」


「分かったよ。青の国には行くだけ行く。で、コルセットとハイヒール廃止作戦はどんな感じなんだ? むしろそっちが気になるな」


「ふふん! 聞いて驚け? 赤の国に出発する前に、片をつけてやるからな。まずはレイティラ公爵夫人を呼び出しだ!」


◇◇◇ 

「まあ! コルセットとハイヒールの着用義務廃止を求める署名活動をする? 社会界で? しかも、貴族の全レディから署名を取りたい?」


「そうなんです! コルセットやハイヒールの着用強制を女性にだけ課すなんて理不尽です! 協力してくれませんか?」


 後日、俺はレイティラ公爵夫人を王女宮に呼び出し、相談を持ちかけていた。


 全てを聞き終わると、レイティラ公爵夫人は難しい顔をした。


「私が声をかければ、2週間もあればレディたちの署名は集まるわ。でも、全員は無理ね。娘にコルセットやハイヒールを履かせたがる母親だっているもの」


「は!? なんで!」


「あのねぇ、シエン大公妃様。女性が社会的地位を上げる方法は、高貴な男性との結婚だけよ? 女性には活躍の機会がないもの」


「それとコルセットとハイヒールに何の関係が?」


「母親たちは娘により良い結婚をさせたがるの。男性は綺麗な足や細くてくびれたウエストが好きでしょ?


ハイヒールとコルセットはそれを叶えるわ。コルセットとハイヒールを廃止しようと、良い男性に見初めてもらうために、母親は娘にコルセットとハイヒールを強要するでしょう」


「なんだって!? そんなの間違ってる!」


 俺が声を荒げると、レイティラ公爵夫人は非難がましい眼差しを向けた。


「間違ってないわ。王女様ともなれば、高貴な男性と結婚できますけどね。下級貴族の女性とかは無理よ。


でも、彼女たちの見た目を美しくすれば、より良い結婚ができるのよ。式典がなくても、結婚のために、コルセットやハイヒールを無理してつける女性だっているわ。行き遅れたりしたら大変だもの」


「なら、どうしたら良いんだ?」


「男性の力を借りることね」


「……コルセットとハイヒール問題で、男の力を借りる?」


「そうよ。妻がコルセットとハイヒールによる苦痛を訴えていて胸が痛いと、高貴な男性たちにも署名してもらうのよ。


その署名は国王に提出するんでしょ? 女の意見は軽視されがちだけど、男が、しかも高位官僚たちも署名するとなれば話は変わるわ」


「……なるほど!」


「それに、コルセットとハイヒールに否定的な男性もいるって、署名活動で示せるわ。


そしたら、母親たちも少しはコルセットやハイヒールの強要をやめるかも。保証はないけど、心理的ハードルは下がるわ!」


「素晴らしい名案だ!」


 レイティラ公爵夫人は指をぴっと立てた。


「いいですか? 私は貴族令嬢や夫人たちの署名をできるだけ集めますわ。シエン大公妃は男性の署名を集めてくださいませ。2週間あれば十分ですわね!」


「分かりました! 手分けして署名活動開始ですね!」




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