↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/28

ep.19 王女とドラゴンの本性

◇◇◇ 

 相談すると、赤の女王は困った顔をした。


「すまないが、説得は難しいな」 


「なんでですか!」

「どうして!?」


 俺とファイアが食い下がると、女王は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。


「ソルティア辺境伯が献上すると言っている駿馬と黄金は、ソルティア家の財産だ。


ソルティアは駿馬の名産地だが、その駿馬はレッド王家の私財ではない。黄金もだ。女王といえど、他家の財産の使い方にまで口出しはできないよ」


――なんだって!?


「辺境伯の財産は、私の持ち物ではないんだ。シエン王女と火竜が縁談に乗り気ではないというのは、私から連絡石で紫の国王に伝えておこう。すまないな」


――くそ! これ以上頼んでも無駄か……!


「分かりました。ご配慮痛み入ります」


 内心の苛立ちを押し殺し、俺は礼儀正しく頭を下げた。すると、ファイアが口を開いた。


「このことについて、宰相と話し合いたい。まだ特別司令官の詳細は決まっていないが、一旦帰国させてもらいます」


「分かった。レッド王家の馬車を用意しよう。シエン王女が赤の王家の紋章入りの馬車で帰国してくれれば、友好の証になるからな」


 女王が笑顔で言うと、ファイアは几帳面に頭を下げた。


「すみません。俺とシエンは空を飛んで帰国します。空路なら、三日で紫の国に着きますから。紫の国王にもそうお伝えください」


 女王は快く了承した。俺とファイアは一時帰国することになった。


◇◇◇ 

「コランお兄さま! お前の体は頂いたわ!」


 目の前には、そう言って笑う俺がいた。


 いや、違う。俺の姿をしたシエンだ。


 シエンは俺の姿で、デド公爵と牡丹の妃と幸せそうに笑い合っている。


――俺から奪っておいて、なんで笑ってるんだよ!


「シエン! 俺の体を返せ!」


 俺はシエンに掴みかかった。


 だが、幽霊になってしまったかのように、俺の手はシエンの体をすり抜けた。 


「くそ! シエン! なんでこんなことをしたんだよ!」


 急に、視界からデド公爵と牡丹の妃の姿が消えた。


 目の前には、少女姿のシエンがいた。


 シエンはすすり泣いていた。


「お兄さま……。なんで、お兄さまばっかり大事にされるの? 私も国王になりたい。


龍の舞や剣舞もしたい。なのに、なんで私には結婚しか許されてないの! ねぇ! 教えてよ!」


 叫ぶと、シエンは腰にさしていた短剣を抜いた。 


 そして、俺を睨んだ。


「私の苦しみを、女として生まれた苦しさを思い知りなさい!」


 シエンは俺に突進すると、俺のみぞおちに短剣を突き刺した。


 鋭い痛みに、俺はうずくまった。


「シエン……! 俺から奪って、ただで済むと思うなよ!」


 俺はファイアに言った。


「体を奪われたことは許せない。でも、シエンとちゃんと話し合いたい。俺にとっては愛する妹だから。シエンの悩みをなんとかしてあげたい。妹との仲直りに協力して欲しい」


 そう……俺は言った。だが……それは嘘だ。


「ふざけんなシエン! 俺から体を奪い、地位を奪い、朝顔を奪った! 女だから王になれない? 


男の俺より冷遇されて苦しかった? それが、俺から体を奪っていい理由になんのかよ! ああ!?」


 俺はシエンを睨んだ。そして、みぞおちを押さえながらシエンの頬をぶって張り倒した。


 シエンは頬を押さえて倒れた。憎しみに満ちた目が、俺を見上げた。


「思い知らせてやるよ! 俺こそが国王に相応しい! お前は国王なんかじゃない! 王女なんだよ! それは俺の体だ! 王は俺だ!」


 夢の中だからだろうか。いつもの人当たりの良い仮面を、俺は脱ぎ捨てていた。


「絶対にお前を許さない! 仲直りなんかしない! 元の体に戻ったら、お前を処刑してやる! デド公爵家も道連れだ!」


 そうだ。俺はずっと怒っていた。怒りを押し隠していた。


 だが、もう隠せない。


 ファイアは俺に言った。

「ちゃんと妹も貧民も救えよ。できなかったら、契約は破棄だ」


――契約破棄? 上等だよ!


 貧民は救う。俺は王族だから、民を救うのが使命だ。

 だが、シエンは救わない。


――元の体に戻れれば、俺は国王だ。火竜に契約を破棄されようが、俺は紫の国のトップだ。


 火竜との関係が切れるのは痛い。だがな、玉座の方が魅力的だ。


 体を取り戻し、玉座を取り戻し、シエンに鉄槌を下す。


 呪術解除の方法を模索しながら、国王を超える力を手に入れる。シエンに俺の実力を見せつけた上で、処刑してやる!


「俺から玉座を奪って、国王になったつもりか? 性別なんて関係ない。どっちが高みに昇るべきか、思い知らせてやるよ!」


――ファイアとは、それまでの関係だ。シエンは思い知らせた後、潰す。


 俺は叫んだ。そこで、目が覚めた。

 

◇◇◇ 

 目を覚ますと、ベッドの上だった。


 帰国の旅路の途中で、俺とファイアは身分を隠して宿屋に泊まったのだ。


 俺が身を起こすと、暗闇の中から、冷たい声が聞こえた。 


「人間、やっぱり嘘をついていたのか」


 冷え切った声に、俺の全身が冷たくなった。


 直後、ベッド脇の机の上に、ランプの灯りが灯った。


 ランプの灯りが、寝台の側に立つファイアを照らした。


「俺は夢見の術でな、人間に夢をみせることができる。その夢をのぞいて、本音を聞くことも可能さ。夢見の術の中では、人間は嘘をつけない」


 俺は絶句した。ファイアは淡々と続けた。


「お前は普段から、人当たりが良くて礼儀正しくて、優しい人格を演じているようだな。だが、ドラゴンは嘘を見抜くのが得意だ。お前の目には憎しみがあった」


 俺は頭を抑えると、乾いた笑い声を上げた。


「……ハハハッ。バレてたのか。妹を処刑したいって? 仲直りする気なんてないって?」


「そうだ。俺はな、"お前の人格が気に入ったから契約した''なんて一言も言ってない」


「……なんだって?」


「無双王女の相棒が面白そうだから、契約すると言った。妹と貧民が救えなかったら、契約は破棄だとも伝えたな?」


「ああ……」


 俺が毛布を握りしめると、ファイアは笑みを浮かべた。


「俺たちドラゴンはな、感情を食べるんだよ」


「感情を食べる?」 


――急に、なんの話だ?


「俺の好物は絶望。青の王フェルと建国したときは最高だった。建国には、多くの犠牲と血みどろの内部争いがあった。


フェルは血塗られた玉座に座った。その過程で俺は、極上の絶望を大量に味わった」


 ファイアは恍惚とした笑みを浮かべた。


「お前の話を聞いて思った。シエン王女の絶望は深そうだと。体を奪うくらい、辛かったんだろう? 


だがな、体を奪った後に、兄が女の体で無双したらどうだろう? 彼女は悔しがるんじゃないか? その上で処刑されれば……最高の絶望が食えそうだ」


「なんだと……」


「俺はね。冷酷なくせに、善人のふりをする実力のある奴が好きなんだ。フェルはそういう男だった! 


それに、お前の龍の舞は最高だった! まるで、フェルが舞っているみたいだった! 俺の目の前に、またフェルが来てくれたって思ったよ!」


 ファイアはうっとりと笑った。俺は背筋が寒くなった。


「まさか……俺が初代青の王フェルに似てたから、契約してくれたのか?」


「ああ! そうだよ! お前の善人っぷりをじっくり観察したかった! だから、今日まで知らぬふりをしてきた! お前の本性をな!」


 俺はふっと笑った。もう、遠慮する必要も、優しいふりをする必要もないだろう。


「そうかよ。悪趣味だな。じゃあ、なんで妹を救えなんて言ったんだよ」


「だって、救うって頷けば、コランは善人のふりをしてるのが確定する。


それに、救えって言われたときのお前の憎しみに満ちた目は面白かった。絶対救わねぇって、お前の目は言ってた。アハハハッ」


――最低。俺はこいつの手のひらの上かよ。


「でもな、約束は約束だ。お前が妹を見捨てたら、お前とは契約破棄だ。契約破棄上等なんだろ?」


「ああ。それまで、仲良くしようぜ。絶望を味わわせてやるから。それまで契約破棄すんなよ」


 俺がにやりと笑うと、ファイアは楽しそうに笑った。


「ハハッ。お前の黒い笑みはフェルそっくりだ。フェルが俺の元に帰ってきた! 知ってるか? フェルもコランと同じで金色の瞳をしてたんだよ」


「知ってるよ。肖像画で見た。外見がお前の思い出の人間と似ててラッキーだな」


――俺は最高の相棒を手に入れたかもしれない。


「王女の身で国王を超える。それで、シエンに思い知らせてやる。王冠を手に入れるだけじゃ不十分だってな。


その上で、シエンとシエンの協力者は処刑だ。俺は王に返り咲く」


「いいねぇ。具体的な策を一緒に考えようぜ!」


 俺とファイアは笑い合った。

 それは、黒くて暗い笑みだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。