ep.16 赤の女王と辺境伯のもくろみは、俺との婚姻
◇◇◇
「それが、5日前の出来事なのか?
しかも、そこの青年がファイアという名の火竜で、契約者はシエン王女だと? なんということだ……」
辺境伯の報告を聞いた赤の女王は目を見開いた。
赤の城の謁見の間で、俺――コランとファイアと辺境伯は跪いていた。
玉座の下に控える官僚たちはどよめいていた。
俺はすっと立ち上がると、王族らしく優雅に一礼した。
「赤の国の女王陛下。実は私、モンスターが攻め込んできたと聞き、いても立ってもいられなくなりました。
ですので、1人でドラゴン窟に乗り込んで、ドラゴンと契約したのでございます」
官僚たちのどよめきはさらに大きくなったが、俺は淀みなく続けた。
「本来なら、兄と紫の国の官僚たちに相談してから赤の国に来るべきでした。
しかし、戦況が緊迫していると聞き、報告の時間が惜しくなりました。それで、ファイアと2人で乗り込んできたのでございます!
許可なく国境を越えた無礼をどうかお許しください!」
「無礼などと……! そなたは赤の国を救った英雄だ! 皆の者! すぐに歓迎の宴を開け!
外務大臣は紫の国王にも感謝状を送れ! 援軍の必要もなくなったと伝えよ!」
「かしこまりました!」
赤の女王の命令に、外務大臣は恭しく一礼した。
「火竜もありがとう。国家代表としてお礼を申し上げるぞ」
女王が頭を下げると、ファイアは立ち上がった。
「女王陛下に頭を下げて頂くなど、畏れ多いことです。俺は竜ですが、気楽に接してください」
ファイアは穏やかに微笑んだ。
――おい! ファイア! 態度がいつもと違いすぎないか!? なんで!? 赤の女王が絶世の美女だから?
赤の女王は真紅の髪と瞳を持つ、齢45歳のレディ。だが、20代のように若々しい美魔女だ。
――いや、んなわけないか。初代青の王の側で側近やってたくらいだし、ファイアは礼儀を意外と知り尽くしてるのかも。
赤の女王は辺境伯にも微笑んだ。
「そなたたちの頑張りのおかげで、火竜が来るまで持ちこたえられたのだ。礼を申すぞ。辺境伯も宴に参加しなさい」
「はっ! ありがたき幸せでございます!」
◇◇◇
「なんと!? その火竜は、初代青の王の竜と同じなのか!?」
俺は女王の左隣に座った。辺境伯は女王の右隣に、ファイアは俺の左隣に座った。
今、俺たちと騎士の代表者10名と高位官僚たちにごちそうが振る舞われている。
女王は俺に根掘り葉掘り色々と聞いてきた。
「シエン王女にそんな大胆な一面があったとは……! そなたとは紫の国に行った際、数回しか話したことがないけどな! もっと話しておくべきだったよ」
――あれ? 赤の女王って何度も外交で紫の国に来てるよな? なのに、数回しかシエンと話したことがないのか?
「えっと……。そうですね。こんなに女王陛下とお話しできて、光栄ですわ」
「そうかそうか。さあ、もっと飲みなさい。まだ未成年だから、甘酒しか勧めてやれないけどな」
女王は上機嫌で俺に甘酒を勧めてきた。
「ありがとうございます!」
俺と女王が喋っている間、官僚と辺境伯と騎士たちは楽しそうに歓談していた。
彼らはときおり、ファイアと俺にちらちらと羨望の眼差しを送ってきた。
俺は気づかなかった。その中で、辺境伯が熱っぽい眼差しで俺を見つめていることに。
料理をあらかた食べ終えると、黙って食べていたファイアが口を開いた。
「女王陛下。モンスターが再び攻めてきた場合に備え、今後の対応を話し合いたいです。
俺はシエンとの契約がありますので、シエン以外の命令や指示は聞けません。紫の国王の命令だとしても、シエンが頷かない限り聞けないのです。
ですので一度、俺とシエンと陛下の3人だけでお話しできないでしょうか?」
ファイアの発言に、全員がどよめいたが、女王は明るく笑った。
「もちろんいいぞ。だが、もう夜だ。話し合いは明日の昼にしようじゃないか」
◇◇◇
私室のソファに腰を下ろすと、私は辺境伯に向かいのソファに座るように促した。
「赤の女王陛下にお呼び頂き、光栄でございます」
辺境伯は静かに微笑むと、ソファに腰掛けた。
「今は誰もいないからな。そんなに堅苦しくするなよ、アラン。私たちは、はとこで幼なじみじゃないか?」
私が肩をすくめると辺境伯は鷹揚に笑った。
「そうですね。では、遠慮なく寛がせて頂きます」
辺境伯=アラン=ソルティアが足を伸ばすと、私はにやりと笑った。
「剣の稽古にばかり明け暮れてるお前が恋とは面白い。あんなに熱っぽくシエン王女を見つめてなあ? バレバレだぞ?」
「なっ……!」
ソルティア辺境伯は少しだけ青ざめた。
私は笑いを抑えるのに必死だった。
「だが残念だなぁ? シエン王女は紫の国のイケメン宰相、リドル=ユゴー侯爵と婚約中だ。38歳独身ブサ男のお前の出る幕はなさそうだ」
「ひどいですよ! 女王陛下!」
「ハハハッ。でもなあ、お前の恋に協力してやってもいいぞ?」
私はすっと視線を鋭くした。
「仮にだ。宰相とシエン王女が婚約破棄したとしよう。そして、ソルティア辺境伯とシエン王女が婚約・結婚する。
素晴らしじゃないか!? 王女の嫁入り道具はドラゴンだ! 王女を取り込めば、軍事力がついてくる!」
「……なるほど。陛下は彼女を取り込むために、赤の国の男とシエン王女を結婚させたいのですね」
「そうだ。赤の国の男なら誰でもいい。お前は地位も金もある。私の親戚だし、調度いいじゃないか? 王女を取り込みやすくなるぞ?」
「随分とシエン王女がお気に召したのですね」
「ああ。紫の国は王女に外交なんてさせないからな。シエン王女とは挨拶くらいしかしたことがなかったが……。
まさかあんなに社交的で賢いとは! もっと前から仲良くしとけば良かったよ!」
私は思わずクッションをぶっ叩いた。
「それで……どうやって婚約破棄させるので?」
ソルティア辺境伯は鋭い目つきで私を見つめた。
私は吹き出してしまった。
「おいおい。略奪する気は満々か? ちょっと待ってな。名案を考えてやるからな。……そうだ! 婚約破棄なんてしなくていいじゃないか!」
私は自分の名案に、にやりとした。
◇◇◇
一方、シエン王女の貴賓室では――。
「なあ。赤の国って大陸一古い国だろ? 今も変わらず女王国家なわけ?」
ファイアから聞かれ、俺はストローから口を離した。
今は2人で、ジュースを飲みながら寛いでいた。
「そうだよ。今の女王は41代目だ」
赤の国は、第3代国王までは男性国王が治める国だった。
しかし、3代目国王は無能だった。
悪政に激怒した当時の王妃は軍事クーデターを起こし、夫を失脚させ、自分が4代目女王になったのだ。
以来、赤の国は代々女王が治める国となった。女性が爵位を継いだり官僚になることまで許されている。
女性が政治の場で活躍する国は、赤の国だけだ。
「俺はな、赤の国を足掛かりにすれば、影響力を持てるって考えてる。なんてったって、女が活躍できる唯一の国だからな!」
「ナイス視点だ、コラン。よし、明日に向けて作戦会議だ!」
俺とファイアは頷き合った。




