第三話 幸せのカタチ
-----------------------幾年月経過
まさか、『王子様』と結婚することになるなんて。
記憶を思い出す前の彼女ならどう思うのでしょう。
あれから随分と時が経ちました。
そういえば、彼女はどうなったのでしょう...?
わたくしに統合された?それとも乗っ取り?
定番は何でしたっけ??
もう忘れてしまいました..............!?
あ、あれ、急に頭が...。
目が回ってきました。
ど、どういうこと?
し、視界が暗くなっていく...。
わ、わたくしは.........。
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「........ん....。」
誰かの声が聞こえる...。
「........さん....。」
どこか遠いところから私を呼んでる声がする。
「柿本さん.........。」
....誰?誰が呼んでるの?
「柿本さん、聞こえますか?」
「......................。」
体が重くて、思うように動かせない。
まぶたが開きにくい。力が入らない。
声のする方に向けて手を伸ばそうとする。
ダメ、力が入らない。
「柿本さんの体に強い反応が...。」
「意識が戻り始めているのかもしれません!すぐに先生を!」
..........................
何度か呼び掛けられる声に反応するかのように。
ようやく私はまぶたを開くことができた。
眩しい光。
知らない天井。
知らない部屋。
そして、自分を覗き込んでいる知らない男の人。
「こ、ここは...?」
「大丈夫ですよ、ここは病院です。」
「病院...??」
「なぜ病院に?わたくしは先ほどまで...。」
状況が全く理解できず、必死に記憶を辿ってみる。
周りのざわめきなど全く気にしないで。
「柿本さん。柿本怜美さん、わたしの声が聞こえますか?」
「す、かきもと....、れみ...?」
「.....うぐっ....!?」
その名前を聞いた瞬間、鋭い痛みが走った。
「大丈夫ですか!?」
「わ、わたくし...は.......。」
ハッとして私は自分の手を見た。
白くてやせ細っていてガリガリの手。
「な...、わたくしの...手が...。」
「...はぁっ....はぁっ.....はぁっ...」
「落ち着いてください。さぁ、ゆっくりと息を吸って、吐いてください。」
(...こ、ここは...、わたくしはいったい...??)
「バンッ!」
病室の扉が勢いよく開いた。
「怜美!」
「怜美ちゃん!」
男女二人が、慌てて駆け込んできた。
「怜美ちゃん.......。」
目に一杯の涙を浮かべ女性がわたくしの手を握る。
温かい。
「良かった、本当に...良かった....。」
男性も目を真っ赤にしながら近づいてくる。
「2年間...ずっと....。」
「にねんかん??」
言葉が反射的に出た。
「そうよ、怜美ちゃん。あなたは、2年もの間、ずーっと眠っていたのよ。」
「に、にねん...、眠っていた?わたくしが...。」
「会社で、倒れていたのよ。」
「遅くなっても帰ってこないから心配になって...。」
女性が泣きながら当時の状況を説明してくださいます。
女性の肩を支えながら男性からも涙が...。
恐らく、この女性はわたくしの母親なのでしょう。
そして、隣にいらっしゃる方は、父親...。
白い服を着た男性が両親の後ろからすーっと出てきました。
「あなたは2年前、過労で倒れそのまま意識を失い、この病院に救急搬送されてきました」
「そして、そのまま今日までずっと眠っていたのです。」
..........................
「!?」
あらあら、なんということでしょう...。では、かの国で過ごした10数年間はたった2年の間に見た夢ということかしら?
...これは、なんともびっくりですわ。
前世の記憶を思い出したとか、断罪回避とか、王子様との結婚とか...。
すべてが、都合の良い夢だったの?
..........................
「柿本さん」
男性が言う。
「目覚めたばかりで、記憶が混濁している可能性が高いと思われます。」
「しばらく様子を見ましょう。大丈夫ですよ。今はゆっくりお休みください。」
..........。
窓の外を見る。
見知ったはずの景色が、全く知らない景色に見える。
あの世界の景色が、鮮明に映し出される。
...アレク王子。
お別れの挨拶くらいできれば良かったですのに...。
..........................1か月後
「お世話になりました。」
元気よく挨拶するわたし。
「完全に回復するにはまだ時間がかかると思います。つらいリハビリ生活が待っているとは思います。ただ、柿本さんならきっと...、大丈夫。乗り越えられますよ。」
そう伝えてくる医師。
この1か月、わたくし...改め、わたしは、とにかくもう頑張った。
2年もベッドの上だったせいで、筋肉が落ち起き上がることもままならなかった。
ゆっくり、でも、必死に頑張った。
そういえば、わたしが勤めてた会社は、私が過労で倒れたことが原因で、会社の体制に問題があるってことが発覚し、1週間も持たずに潰れたそう。
あぁ...、なんてこったい。
つらいリハビリ頑張って、頑張って、頑張って...たまに。
あの頃の夢も見て...。
「元気にしてるかな...、アレク。」
思わず、口に出ちゃった。
もちろん、返事なんてない。
みんな、夢の話...。
「ふぅ...。」
幸せで毎日、甘い生活...いやいや、結構公務に追われてたよね...。
断罪回避のために頑張って、回避後は...。
よく考えたら私、結構ハードモードだったのでは?
「まっ、いいや。」
今はこの世界で幸せになる。
あの世界でも幸せになるために頑張って結果出したもん!
絶対にできる、わたしなら大丈夫!
..........................
「行っちゃいましたね...、柿本さん」
女性の看護師が隣の医師に言葉をかける。
「あぁ。」
「最初はどうなるかと思いましたが、何とかなりましたね。」
看護師が少し笑う。
「...それにしても、こういうパターンもあるんですね、先生」
「.......異世界症候群(AWS)か?」
「はい。」
「結局は、本人次第だからな、あんなものは...。」
現実に生きるのも、妄想に生きるのも...。
本人が幸せならどっちでもいい...。
「さぁ、戻るぞ。患者が待っている。」
..........................数か月後
わたしは今、地元の小さなカフェでバイトしている。
まだ、完全に元通りにはなってない。
けど。
働いて、色んな人と出会って、笑って、話して。
普通の人として毎日を過ごしてる。
それが楽しくもあり、嬉しくもあった。
「いらっしゃいませ!」
今日も元気に声を出す。
「こちらの商品でよろしいですか?」
商品を手渡す。
「ありがとうございました。」
わたしは無意識に一歩下がり、スカートの裾を軽く摘まんだ。
「...ごきげんよう」
「........」
客が一瞬固まり、私も固まった。
「........」
数秒の沈黙。
「す、すいません。」
私は顔を真っ赤にし慌てて頭を下げる。
(や、やらかした~)
..........................
はぁ、毎日ずっとだったんだもん。
貴族令嬢として相応しい立ち振る舞い。
挨拶とか、優雅な所作とか、言葉遣いなんかも...。
もう、こっちの世界じゃいらないんだけどさ...。
「もうちょい気をつけないとね。変な子だと思われちゃったら、違う意味で死ぬ...。」
異世界で過ごした生活は消えない。
夢だったのかもしれないけど、わたしは確かに生きていた。
あの世界で出会った人たちも、この世界で出会う人たちも、みんな。
みんな、確かに生きている。
どっちの世界でもわたしはわたし。
窓の外を見た。
夕暮れの街。
車の音と、人々の会話。
見慣れた日本の景色。
わたしは小さく呟く。
「...あしたもがんばろっと」
..........................
「現実世界で生きることと、妄想世界で生きること。」
本当に。
「人間にとって幸せなのは、どちらなのでしょうね」




