第一話 目覚めてしまった悪役令嬢
...カタカタカタカタカタ..カタッ
「ふぅ...、今日も残業かぁ...。」
誰もいないオフィスで一人、パソコンに打ち込む人影。
「いつからこんなことになっちゃったんだろ...。」
「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ...。」
大学を卒業して今の会社で働きだして、早5年。
同期はみんな何だかんだ言って会社を辞めていった。
やれ、独立するだの、結婚するだの...って。
みんな、ただ逃げてるだけだって思ってた。
わたしがこの会社を立て直す!何とかする!...とか強がり張ってさ...。
...結局、逃げ遅れただけなんだよね、わたし。
「はぁ..........。」
「あっ、しまったぁ。お母さんに今日遅くなるって連絡するの忘れてた。」
ご飯作って待ってるかな...、すぐ電話しないと...。
スマホを取り出して、検索しようとタップしようとした。
「うっ...。、む、胸がい..いたっ...い...........。」
「わたし...まだ、なにもしてないのに...。」
「おか...あ...さ.........。」
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...という前世の記憶を、頭をしこたま打って思い出しました。
「みなさまごきげんよう、エスカテリーナ・バラバエルです。」
えっ?誰に向かって話してるって?
ふふっ、誰でしょうね。それは乙女の秘密です。
バラバエル侯爵の一人娘で、御年7歳。
蝶よ花よと育てられ、それはそれはもう高慢ちきな我儘お嬢様に育ちましたわ。
本日、わたくしは父が公務で王宮に向かうのを知り、駄々こねまくって一緒についてきたのです。
綺麗なものが一杯あると思いまして...。
そこで、出会った同じ年の第一王子に一目ぼれしてしまったのですわ。
はじめて会った王子さまは、それはもう...。
金髪碧眼。
将来は絶対に美形に育つことが確定している、天使のようなお顔立ち。
年齢の割に少し大人びていて、理性的な瞳でわたくしの心を打ち抜きましたのよ。
甘やかされて育ってしまっていて、みんな、わたくしの言うことを聞くもんだと思ってたものですから、相手が嫌がってるかどうかなんて一切気にせず、ずーっとべったり付きまとってましたわ。
王子様の体にずーっと体を擦り付けて歩いてたら、ちょっとひっかかってしまってそのまま転んでしまいました。
で、運悪く?転んだ先にあったのが庭園に置いてあった大きな石。
いやもう、ざっくりいっちゃいましたね、額。
強烈な痛みが走って大泣きして、そのショックでまさかまさかの前世を思い出すっていうね。
前世のわたくしは、ブラック企業に勤めるアラサーの独身女でしたわ。
7歳の少女の頭に突然30年分の記憶が入ってきちゃいまして。
いやもう、頭が爆発するのかって思うくらい、猛烈な痛みが襲ってきました。
それでそのままダウン。
すぐさま宮廷医師が治療に当たり、そのまま屋敷まで強制送還となりました。
1週間くらいでしたかね?
高熱と痛みに苦しんで...。
まぁ、何とか熱と痛みが引いた頃には頭の中の記憶も落ち着き、ようやくベッドから起きられるようになりました。
すると、わたくしの見舞いに、王子様がお越しになられました。
わたくしの顔に傷をつけてしまったから、責任をとって婚約者に...と。
記憶を思い出す前なら狂喜乱舞してたかもしれませんね。
ですが、今のわたくしは前世と今世で合わせて30半ば...。
さすがにそこまでショタではございませんわ。
そもそも顔の傷って言っても、額にちょっぴりあるだけで、気に病む必要は全くございません。
ただ、まぁ、今後大きくなって社交界に出るときに、陰でヒソヒソされるってことくらいで。
あまり気にしなくていいですよ~って返したはずですが、どうやら伝わらなかったご様子で。
気が付いたら、正式に婚約者になってましたわ...。
「おめでとう、カーシャ。婚約者候補ではなくて、正式な婚約者に決定したそうだ。」
父がわたくしにそう伝えてくる。
「え...、は、はい。そ、そうですね...。」
「どうした?嬉しくないのか??」
「い、いえ、ありがとうございます、お父様」
「...お、おとうさま?ど、どうした?その言葉遣い??いつものようにパパと呼んでくれていいのだぞ?」
「いえ、これからは王子の婚約者。この国を支える国母になっていく立場。言葉遣いから変えて行こうと思いまして...。」
「そ、そうか...。それはそれで、寂しいな...。外ではともかく、屋敷の中ではもっと甘えてくれていいのだぞ...。」
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それからのわたし...改め、わたくしは、それはもう頑張りました。
勉強が大嫌いだったせいで、信じられないくらい何も知らなかった高慢我儘お姫さま。
家庭教師にはしっかり謝罪し、心を入れ替え勉強する!って宣言したら、ドン引きしてましたわ...。
お母さまに協力してもらい、淑女教育も並行して行い、12歳くらいでこの国で必要な知識や所作等をマスターしましたのよ。
まさか、前世での社畜経験がこんなところで活きるなんてね。
...そのときふと思ったのです。
あれ?この世界って乙女ゲームの世界なんじゃ...??
細かい地名とか、少し異なるところもあるけれど、前世でやってた乙女ゲームの世界じゃないのかと気づいてしまったのです。
それで、あぁ、やばい!と思いましたわ。
このままだと婚約者の王子に、学園卒業式で断罪されて...わたくし、修道院?
いやぁぁぁですわぁぁぁっっっ!
...どうしましょう。
ヒロイン虐めなければいい?
いやいや、虐めなくてもああいう子って虐めたって言うじゃないですか。
王子もお花畑でヒロインの言葉しか聞かないし。
何やっても詰んじゃいますわ、これ...。
あっ!
そもそも会わなければいいのでは?
確か、13歳で学園入学のはず。
大丈夫、まだ1年あります。
そういえば、隣国への留学が可能だったはず。
急いで調べて、お父様を説得するのです!
-----------------------数年後
「エスカテリーナ、お前との婚約を破棄する!」
今日は、学園生活最後の日。
大勢の来賓がいる前で、第一王子はわたくしにそう宣言いたしましたのよ。
「貴様は、私の婚約者という立場を利用し、彼女を虐げた!」
王子の隣で王子にしがみついているのはピンク髪の可憐な少女。
「わ...わたし、学園にいる間、ずっとエスカテリーナ様になんども嫌がらせを受けて...。」
「嫌がらせ...ですか?はて、何かいたしましたか?」
「ひ、ひどい。わたしが話しかけようとしてもいつも無視して。」
「教科書だって、ビリビリに破いて!」
そう叫びながら涙を潤ませる少女。
「エレナ...、大丈夫だ。私がそばにいる。」
「エスカテリーナ!貴様は...」
「そうなの?あなたのお名前、エレナというのね。はじめまして。エスカテリーナ・バラバエルですわ。」
わたくしは淑女として完璧なカーテシーを見せながらそう言いました。
「はじめまして...だと!」
王子は激高しながら、叫ぶ。
「貴様、今までエレナを散々虐めておきながら、『はじめまして』だと?ふざけるのもいい加減にしろ!」
「おやおや、ふざけてなどいませんよ、お・う・じ・さ・ま。わたくしは本当にはじめてお会いしたものですから」
「なっ!どういう意味だ!」
「婚約者でありながら、わたくしに露ほども興味を持たれていないのですね...。」
「そもそもわたくしは、こちらの学園には通っておりませんわ。」
「なっ、何を言ってる??」
「こちらの学園は少々お頭のレベルが低い方が通うところでしたので、わたくしは13歳から隣国へ留学しております。」
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記憶を取り戻してからしばらくして気づいたことがありまして...。
この世界って、前世で流行ってた乙女ゲームの世界にそっくりなのだと。
いやいや、まさかまさかの事実。
でもって、わたくしの立場が学園卒業時に断罪されて、修道院送りの悪役令嬢だと。
いやぁ、本当に困りましたわ。
修道院は勘弁して欲しいと思い、何か手を打とうとして。
そもそも学園に行かなきゃいいんじゃね?と思い、お父様にお願いして早々に留学したのですよ。
ほんと、良かったわ、記憶思い出して。




