第三話 目覚めた勇者
身体が重い。
何かが遠ざかっていく...。
クリスティーナの顔が...。
仲間たちの姿が...、旅で出会った人々の姿が...。
俺の世界から消えていく。
「ま、待ってくれ...!」
「俺は...、俺はまだっ!」
「まだ、終わってないんだぁっ!!」
必死に手を伸ばすが、届かない。
「あ、あああああああっっっ」
---------------
「........さん。」
どこか遠いところから声が聞こえる。
「平さん。」
知らない声がする。
ゆっくりと目を開ける。
眩しい光で目が痛む。
見知らぬ天井。
見たことのない部屋。
俺を囲むように数人の男女が立っていた。
白い服を着た男性が話かけてくる。
「平さん、私の声が聞こえますか?」
「こ、ここは...??」
声が出にくい。
喉が渇いている。
「大丈夫です。ゆっくりでいいですよ。」
男性が優しく話しかけてくる。
「平さん、あなたは今、病院にいます。」
「.........病院...?」
意味が分からない。
俺は...、魔王を倒して...、クリスティーナと...。
「ク、クリスティーナは!?」
「クリスティーナ?誰ですか??」
男性が困惑した顔で答える。
「クリスティーナ姫だ!オーモンド王国の!」
(ズキリッ!)
その瞬間、頭の奥に激しい痛みが走った。
「うっ、頭が...。」
「あぁ、無理はなさらないでください。まだ目覚めたばかりですので。」
「.........」
「あなたは、眠っていたのですよ、三年間。」
「さ、さんねん...??」
「交通事故です。覚えてらっしゃいますか?」
「じ...こ....。あぁ...。」
男性が静かに伝えてくる。
「あなたは三年前、交通事故に遭いました。」
「意識不明の状態に運ばれてきて、そのまま今日までずっと眠っていたのです。」
---------------
う、嘘だ!そんなはずはない!!
三年だって!?
あれが夢だったって言うのか??
違う!そんな...。
お、俺は、確かに生きていた。
仲間と共に旅をした、魔王も倒した。
クリスティーナを愛した。
そのすべてが...。
す、すべてが夢だったというのか!?
-----------------------------------------------
「平さん」
男性が言う。
「事故の影響で、一部記憶が混濁している可能性が高いと思われます。」
「しばらく様子を見ましょう。大丈夫ですよ。今はゆっくりお休みください。」
俺は返事を返すことができなかった。
窓の外を見る。
見知ったはずの景色が、全く知らない景色に見える。
あの世界の景色が、鮮明に映し出される。
共に戦った仲間たち...。
クリスティーナ...。
---------------
数日後、病室内。
そこには、段ボールで作った鎧に身を包み、新聞紙で作った剣を掲げる男がいた。
「クリスティーナ...。」
「私は、必ずあなたをお守りいたします、この剣にかけて誓います。」
目は虚ろで、焦点は合っていない。
「愛しています。」
目の前の女性は笑顔で頷く。
「わたしも愛しています、マサカズ様...。」
女性は...。
彼の母親だった。
---------------
病室の外。
彼らの様子を見る医師と看護師。
「............。」
看護師は何も言えなかった。
「親の愛というものは、本当に偉大だな」
医師が呟く。
「...無償の愛...ですか?」
「あぁ。」
「こどもがどんな世界で生きていても、どんな姿になっていようとも」
「親は、そのこどもを無条件で愛することが出来る。」
.............................。
「先生。」
看護師が小さい声で言う。
「最近、増えましたよね...。」
医師は窓の外を見ながら呟く。
「異世界症候群」
「Another World Syndrome」
「通称...、AWS」
---------------
「現実世界で生きることと、妄想世界で生きること。」
本当に。
「人間にとって幸せなのは、どちらなんだろうな...。」




