第三話 僕、スローライフ?
------------------------数年後
僕は馬車馬の如く働いていた。
僕のスキルは調整がかなり難しいことが分かった。
調整ができない、一発勝負。
結局、荒地で生活するのが難しすぎて素直に山に引っ越した。
植物はいっぱい生えていたし、野生動物も結構住んでる。
『剣聖』にはなれなかったけど、剣はずっと振ってた。
だから、動物の狩りも簡単にできると思ってた。
...できなかった。
素早くて、追いつかない。
諦めようとして家に戻ろうとしたら、アンがいつの間にか狩り取っていた。
えーっと、アンって見習いメイドだよね?
アサシンか何かなの??
アンがいれば何もしなくてもいいのでは?と思いかけてしまった。
深い意味なくアンの顔を見た。
目が死んでいた...。
やばい、このままだと、いずれ捨てられる!?
何とかしないと!
だから、僕は働いた。
とにかく、猛烈に。
捨てられるのはダメだ。
死活問題過ぎる...。
そんな毎日を過ごしていたら、山に誰かがやってきた。
ホットロッド家の執事長だった。
僕が死んだかどうかを確認するため、両親が派遣したらしい。
ボロ家に誰もいないことを怪しんでここまで来たらしい。
僕たちの姿を見つけ、驚愕し叫んだ。
「ば、ばかな?なぜ、生きている??」
「ちっ、仕方ない。この場で...うっ!」
その言葉を言い終わる前にアンが執事長の背後に現れ、首を絞め落とした。
手足を縛り動けなくしてから、たたき起こした。
「何をしようとした?」
僕が尋ねる。
「......、ぐはっ!」
ダンマリを決め込んだ執事長の腹に拳を叩きこむアン。
「答えろ、さもなくば地獄を見ることになる。」
感情の全くない死んだ魚のような目でアンが脅す。
「ヒィィィィィッッ!ゲボォォォ!!」
「答えろと言った。次はない。」
叫び声をあげた執事長の腹にスタンピングの嵐。
ヒールが腹にめり込んでいた。
ぐったりして倒れた執事長の顔に熱湯を浴びせるアン。
「うぎゃぁぁっ、あ、あついぃぃぃ!ウゲェッ!」
蹴り飛ばすアン。
「答えろ、まだ蓋すら開いていない、地獄の窯のなぁ...。」
アンが怖い。
いや、まじで滅茶苦茶怖い。
す、スローライフ転生、どこいった??
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どうやら、両親は僕を亡き者にしたいらしい。
長男の僕を長期療養させているという言い訳にそろそろ限界がきているようだ。
僕が死ねば、全てが解決するそうだ。
参ったなぁ...。
僕はまだ死ぬつもりはないし、これからこの山を。
どんどん発展させて村にして、人増やして町とかに...みたいな夢がある。
今は、まだ死にたくない。
「消しましょうか...。」
アンが呟いた。
「えっ...、アン。何を消すの?」
僕は恐る恐る聞いた。
「すべてを。イシュリーさまの歩む道を遮るすべての者たちを...。」
アンの目の光がどんどん無くなっていく。
こ、怖い。
ど、どうしよう...、僕はどうすればいいんだ??
「あぁ、何を悩んでいたのでしょう。難しいことではありませんね。イシュリーさま」
アンが全く感情のこもらない声で、僕の耳元で囁く。
「ヒッ」
(な、なんで、アン?いつの間に僕の後ろに立ってんの?)
「な、何をする気だ...アンリーワッ...グボォッッ!」
執事長は吹っ飛んでいった。
「えっ!えぇっ!?」
僕が驚いていたら、アンがとびっきりの笑顔(目は笑っていない)を向けてこう言った。
「大丈夫ですよ、イシュリーさま。もうじき、そんな話は消えてなくなりますよ。そう...、存在自体が...。」
な、なんか怖い言葉が聞こえた気がするけど、ま、アンがそう言うなら大丈夫かも。
僕は僕でスローライフ楽しみますか!
「そうだね、気にしないでおくよ。」
そう言って僕はアンと一緒に家の方に向かう。
その後の執事長のことは、知らない。
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「ふわぁぁぁ~」
大きなあくびをして目が覚めた。
窓から入る朝日が眩しい。
窓を開けて空気の入れ替えをする。
「アン!お腹空いたね。今日のご飯はな...に...?」
声を出しながら途中で気づく。
あぁ、そうだった。
昨日の夜は久しぶりに向こうの世界にトリップしていたんだっけ。
トリップ?
あぁ、僕だけのギフト。
僕はいつだって別の世界に飛んでいける。
別の世界で僕は、別の『僕』として生活する。
別の世界の『僕』も、この世界の『僕』も。
どっちも僕自身。
昔は、親とかが僕のことをおかしいと言い出して、病院に連れて行った。
でも、特に何も病名はつかなかった。
そりゃそうでしょ。
みんな、そうじゃん。
こんなの僕だけじゃないでしょ!
みんな、何かしら抱えてる。
辛いこと、苦しいこと、みんな一緒に抱えてる。
だから、みんな物語を読む。
自分に都合の良い夢を見させてくれる世界。
『ご都合主義』満載の夢ある世界。
僕も昔は色んな『ご都合主義』な世界を描いた作品を読み漁っていた。
でも、ある日気づいたんだ。
僕が世界を紡げばいいんだって。
作家になるってこと??
うぅん、違うよ...。
僕が僕だけの都合の良い世界を作り出して、その世界で生きればいいってこと。
もちろん、完全に夢の世界にだけ自分を置いたらそれは単なる廃人。
廃人になる気は全くない。
僕は、この世にちゃんと生きてる。
ただ、自分の意思で別世界にトリップして、もう一人の僕として生きているだけなんだ。
二つの世界を行き来して、色んな人と出会っていっぱい人生を謳歌する。
なんて楽しくて、素晴らしいんだ...。
------------------------大阪 某病院内
「変わりませんね、伊藤さん...。」
看護師が医師に向かって、そう呟く。
「彼は、自分が別の世界とこの世界を行き来できると思っている。」
医師が答える。
「本来ならそんな都合の良い夢などない。早く目を覚ませと言ってやるべきなんでしょうかね?」
看護師の問いに医師は頭を振りながらこう言う。
「いや、彼にとって、今の状態はとても心地いい生き方だ。それを医師が否定することはできないな...。」
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「現実世界で生きることと、妄想世界で生きること。」
本当に。
「人間にとって幸せなのは、どちらなんだろうな...。」




