第二話 名前の長い男たち
-----学園
入学式、道が混んでて馬車がなかなか進まなかった。
だから慌てて降りて走っていったわ、御者の叫び声をバックにね。
何とか滑り込みセーフってところで、勢い余って転んでしまったの。
そしたら。
「だいじょうぶ?ケガはない?」
って、透き通るような美しい響きの音がしたわ。
慌てて振り返ると。
金髪碧眼の絵に描いたような美少年が私を心配そうに見ながら、手を差し伸べてくれていた。
その手をとって、お礼を言おうとしたら、彼の胸に倒れこんでしまって...。
ヤバいって思って顔を上げると、目が合ったの。
吸い込まれそうな綺麗な青い目。
どうしようと思ってたら、すぐ近くにいた女が私を引きはがした。
「殿下に触れるな、痴れ者が!」
そう言いながら怒る女。
「殿下?」
そう、それがこの国の第一王子 ビッグ・バフ・ビューティフル・ブランク・ベイナル・ダマス(Big, Buff, Beautiful, Blank, Banal — Dumbass.)、略して、B5D殿下だ。
このB5D殿下こそが、私のターゲットの一人。
この人を落として、私は成り上がってみせる。
-----卒業式前日
はぁ...色々あったわ。
とりあ、B5D殿下はゲットできた。
後、騎士団長の息子である、ガッツ・グリット・グラント・ゴリラ・ゴブシャイト(Guts, Grit, Grunt, Gorilla, Gobshite)、略して、5G。
それから、インテリ眼鏡のこの国の宰相の息子、チャタリング・コッキー・セレブラル・カワードリー・クルーレス(Chattering, Cocky, Cerebral, Cowardly, Clueless)、略して、5C。
...っていうか、この国の男ども、名前長すぎない?
なんで略称なんかあるの?まじ意味分かんないんだけど。
それはともかく、何とかなった。
後は、お待ちかねの断罪タイム。
そうそう、よくあるアレね。
普通に考えて、平民上がりの男爵令嬢が、身分の差をはき違えて図々しく王子とかに距離詰めたら、窘められるなんて当たり前じゃん。
しかも、婚約者いるんだよ。
そんな状態で距離詰めにいったら、婚約者だって切れるって。
...なんだけど、ここは異世界。
ご都合主義満載でバカみたいな妄想が叶ってしまう場所。
そして、私はヒロイン。
物語の強制力ってやつ?
楽勝楽勝。
明日はしっかり、婚約者どもを断罪して、私はこの国の王妃になるのよ。
でもって、毎日贅沢三昧ってわけ。
ウケるよねー
-----卒業式当日
保護者のいない舞台。
卒業予定者が集まる集会所でそれは始まった。
王子に寄り添うピンク髪の少女。
震えている演技が白々しい。
王子は、卒業式で宣言する。
婚約者に対して、か弱き男爵令嬢を虐めたと。
婚約者は必死に虐めたわけではない、あくまで教育の一環だと答える。
王子が声高らかに叫ぶ。
証拠は揃っているのだと。
騎士団長の息子が王子の婚約者を押さえつけ、宰相の息子がそれを冷たい目で見つめる。
断罪劇が進んでいった。
「殿下、私はいいのです。私にも至らないところはいっぱいありましたから。あまり責めないであげてください...。」
王子の腕に腕を絡ませながらしおらしく囁くヒロイン。
「あぁ、なんと可憐な。なんと、心清らかな...。」
王子を始め、側近たちは感銘を受けていた。
(ちょろいねーこいつら。物語の強制力があるからって簡単に騙されやすくない?この国大丈夫なの?)
(ま、私には関係ないけどねー。とりあ、楽しく遊べたらいいかな)
断罪は終わらない。
(早く終わんないかな。そろそろ飽きてきたんだけど...。)
...あれ?いつの間に夜になった?なんか、暗いんだけど??
「殿下?そろそろ...あれ?」
殿下が動かず、固まっている。
(えっ、なに、どういうこと?)
慌てて周りを見渡す。
誰も一言も発していない。
動きも全くない。
「ちょっ...、5G!5C!」
話しかけるが返答がない。
死...いや、違う。
まるで時が止まったかのように動いていないだけだった。
「ど、どうして...。一体なにが?」
突然、会場がグルグルと回りだした。
な、何が起きてるの?
ビシッと何かが裂けるような音がした。
「へっ?」
突然、地面が割れ、大きな穴が出来た。
そして、ピンク髪の少女は、その間抜けな声と一緒に穴に落ちて行った。




