第98話:第四の壁と壊れた恩義
「ふぅ……痛、み分け……だね」
地面に叩きつけられ、激しい土煙の中から立ち上がったアリシアが、痛む背中を押さえながらニシと笑った。
だが、カシウスの表情は凍りついていた。
カシウスの左腕に装着されていた黒鉄の義手。その精密な関節部が内側から爆ぜ、肘から下が音を立てて崩れ落ち、地面へと転がったのだ。
吹き飛ばされる直前、アリシアの放った目にも留まらぬカウンターの一撃が、的確にその構造的弱点を打ち抜いていた。
「なっ……私の……左腕が……!?」
攻撃に使っていなかった方の腕。だがその左腕は、カシウスにとって何よりも大切な『絆』そのものだった。
かつて戦いで左腕を失い、絶望の淵にいたカシウスにこの漆黒の義手を授けてくれたのは、他ならぬレイン会長だったのだ。言葉にならぬほどの恩義。そしてレインは静かに告げたのだ、
「私の右腕になってほしい」
と――。
「勝手に……私の過去を語るなぁぁぁッ!!!!」
カシウスの血走った叫びが、校舎裏の空間に凄まじい圧となって響き渡る。なっ!? そんな……地の文である『私』と会話した……!? まさか、このタイミングで覚醒したら……封印された『奴』の意識が呼び覚まされてしまう――!?
「覚悟しなさい!!アリシア・ヴァレンタイン!!」
左腕を破壊されたカシウスの全身から、これまでとは桁違いの禍々しい漆黒の魔力が溢れ出す。その魔力波は、遥か遠くの旧生徒会室、そして理事長室の空気をも激しく揺らし始めていた――!




