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第94話:解けゆく氷と記憶の綻び

慌ただしい足音とともに、校長が滑り込むように理事長室の扉を押し開けた。



「り、理事長! 大変です! 生徒会長たちが歴代理事長の写真を見て違和感を覚えております……! 記憶操作が溶けかけていますよ!」



悲鳴のような報告を受けながらも、理事長は窓の外――アリシアとカシウスが拳を交える巨大倉庫の方向を冷たく見下ろしていた。



「焦りなさいな、校長。……この国で起きた幾つもの『魔力覚醒』。その余波が、着実にあの方を封じる氷を溶かしているのですから」


「そ、それは素晴らしいことですけれど……! でも、記憶の改変がバレては元も子もありませんわ!」


「ええ、分かっていますよ……」



理事長は舌打ちをひとつ漏らし、美しくも禍々しい顔を歪めた。



「やはり……『ブレイン(賢者は歴史に学び)ストーミング(愚者は経験に学ぶ)』を持つ『ジン』が、あの『魔の7日間』で死んだのが痛手すぎる……。奴さえ生きていれば、生徒たちの記憶などいつでも上書きできたものを」


「ま、まずいですよね!? やっぱりジンの穴は大きすぎますって!」


「くっ……あの方の完全なる復活まで、あとほんの少しというのに……! 余計な勘繰りを始める前に、手を打たねばなりませんね」



150年間、この学園の歴史を陰から歪め続けてきた忌まわしき記憶の呪縛。

『ジン』という絶対的な精神支配者の死によって生じた小さな綻びが、いまや学園全体を崩壊させる巨大な亀裂へと広がりつつあった――。

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