第93話:150年の肖像画
「……やはり、おかしいですわ」
静寂に包まれた例示学園・図書室の最奥。
重厚な羊皮紙の匂いが漂う資料室で、レインは分厚い『学園創業150年史』のアルバムを指でなぞりながら、固い表情で呟いた。
「まぁ……見事なまでに、みんな理事長そっくりですわね」
隣でページを覗き込んでいたエリカが、扇子で口元を覆いながら引きつった声を上げる。
150年の歴史を誇る超名門・例示学園。
その歴代理事長の欄に並ぶカラーやサイバーの顔写真――初代から現職に至るまで、全員が寸分違わず『あの若々しい少女のような女性理事長』の顔をしていたのだ。
「いくら直系の血縁関係があろうと、150年前から今日まで、完全に顔が同一の人間が理事長を務め続けているなんて……一体どういうことですの?」
レインの眉間にしわが寄る。遺伝や偶然で片付けられるレベルではない。
「……それ以前にさね」
サクラが電子タバコの電源を消し、アルバムの写真を鋭い眼光で見つめた。
「何でアタシたちも、この学校の生徒全員も……今までこの異常さに誰も気が付かなかったんさね?」
「……っ!?」
レインとエリカの背筋に、冷たい悪寒が走る。
当たり前のように毎日見届けていた学園の歴史。疑問すら抱かなかった異常事態。
まさにその時――本棚の陰から、密かに3人の様子を窺っていた中年女性の影があった。この学園の校長である。
(な、なんですって……!? あの生徒たち、歴代理事長の写真を見て違和感を……!? 洗脳が取れかかってる!? 大変だわ、すぐに理事長へご相談しなくては……!)
冷や汗をダラダラと流しながら、校長は足音を殺してそっとその場を離れ、理事長室へと駆け出していくのだった。
学園を覆う150年目の『巨大な嘘』の皮膜が、いま音を立てて破れ始めていた――。




