第90話:拒絶と不穏な兆し
「色んな魔力がぐちゃぐちゃに混ざり合ってて、すごく分かりにくいよ……」
アリスは小さく眉をひそめ、額に汗を浮かべながら両手の青い光を必死に維持していた。1年前の凄惨なコロシアイの最中、複数のランカーたちが入り乱れて魔力を放出したのだ。残滓はあまりにも複雑に絡み合い、解析は容易ではない。
「そこまでです! ここは立ち入り禁止区域ですよ!」
静まり返った部屋に、鈴を転がすような、しかしどこか幼さの残る通る声が響き渡った。
一同が振り返ると、そこに立っていたのは少女と見紛うほど若々しい容姿をした女性――例示学園の最高権力者、理事長だった。
「げっ……理事長!?」
エリカが露骨に嫌そうな顔を浮かべ、扇子をバッと閉じる。
レインは慌てることなく、凛とした佇まいで理事長へとまっすぐな視線を向けた。
「……理事長。ちょうど良いところにおいでいただきました。貴女に一つ、お聞きしたいことがございます」
「な、なんですの急に。怒りますよ?」
「……『序列1位』について、何かご存知ではありませんか?」
レインの問いかけに、理事長は一瞬だけ丸く目を見開いた。
「へ……?」
「何年も姿を見せていないにもかかわらず、その存在は退学はおろか、学籍の除名すらされていない……。いくら実力主義の例示学園とはいえ、あまりにも不自然ですわ。あの『魔の7日間』の裏にも、1位の影がちらついています」
「さぁ~? 私にそんなこと聞かれても分かりませんね! ほらほら、立ち入り禁止の場所でコソコソしない! しっ! しっ!」
理事長は露骨に話を逸らすと、まるで野良猫を追い払うかのように両手をシッシッと振って、レインたちを力任せに部屋の外へと押し出した。
バタンッ! と重苦しい鉄の扉が閉ざされ、再び南京錠がかけられる。
――廊下に残されたレインたちが足音を響かせて去っていくのを、ドア越しにじっと確認した理事長は、先ほどまでの無邪気な表情を消し去っていた。
暗闇に包まれた旧生徒会室の中、彼女の瞳に冷たく禍々しい光が宿る。
「……ふふ。『あの方』の復活が、もうすぐそこまで迫っているというのに……。誰であろうと、邪魔なんてさせませんよ……」
闇の底で蠢く真実が、少しずつ、しかし確実にその姿を現そうとしていた。




