第87話:旧生徒会室の亡霊
グラウンドに激しい衝撃音と土煙が巻き上がった。
アリシアの渾身の一撃をまともに喰らったメイは、白目を剥いてそのままピクリとも動かなくなった。
「う……あぐっ……」
それもそのはずである。メイの固有魔法『フリクション・ゼロ』は完璧な防御を誇っていたがゆえに、彼女自身は『攻撃を物理的に耐える肉体』を鍛え上げる必要がなかったのだ。
無敵のバリアに頼り切っていたツケが、この一撃で一気に回ってきたと言えた。
――それはそれとして。
大騒ぎになるグラウンドを遠くに見下ろす校舎の最奥。
レインとサクラの二人は、重々しい鉄の扉の前に立っていた。
【立入禁止】のテープが不気味に交差し、南京錠で固く閉ざされたその場所は――かつて『魔の7日間』の舞台となり、今は空き部屋として打ち捨てられた旧生徒会室である。
「……あれから1年。ずっと、目を背け続けてきた場所ですわ」
レインは鍵口にそっと触れながら、絞り出すような声で呟いた。胸の奥がキュッと締め付けられるような錯覚に襲われる。
サクラは胸ポケットから電子タバコを取り出し、紫煙をゆらりと吐き出した。
「あんたは現生徒会長だ。過去に何があったのか……目を見開いて、知る権利があるさね」
「……」
レインは一瞬だけ躊躇したように指を止め、それからゆっくりと首を傾げてサクラの横顔を見つめた。
「……では、なぜ貴女はその権利を放棄したのですか? 『元・生徒会書記』サクラさん」
旧生徒会室の崩壊後、生き残った3人のうちレインは生徒会長の座を引き継ぎ、エリカは牙を研ぎ続けた。だが、かつて優秀な書記として生徒会を支えていたサクラだけは、すべての役職を辞任し、一線を引いたのだ。
サクラは煙の向こうで、自嘲気味に細い目を細めた。
「さぁね……。あの凄惨な地獄を見て、真実を追うのが怖くなったのか。それとも、単に何もかも面倒くさくなったのか……。そんなこと、当時のあたしにしか分からんさね」
静まり返った廊下に、カチャリと鍵の外れる冷たい金属音が響き渡った。
少女たちが触れてはならなかった『1年前の真相』の扉が、今、静かに開かれようとしていた。




