第86話:ガラスの絆創膏
アリシアの瞳が、メイの足元の一点に鋭く止められた。
靴底を補強するジュラルミンの縁。そこに、微かに残る赤い溶融痕があった。激しい摩擦熱によって、わずかに溶けかけた微細なガラスの粒だ。
(もしかして――)
アリシアは迷うことなく自らの制服の裾を強く掴み、バリリッという凄まじい音とともにグラスファイバー製の生地を引き破った。そして、その破片を迷いなく右拳へと頑丈に巻きつけていく。
「くらえぇぇぇーーーッ!!」
アリシアは大地を踏み荒らし、一直線にメイの腹部を目がけて拳を突き出した。何の工夫もない、直球のストレート。
メイは鼻で笑い、冷酷に魔力を練り上げる。
「ふん……愚か者め。【スレスレの擦れ】!!」
メイの着用している生徒会役員服は、耐熱・耐摩耗性に優れたアラミド繊維で織られた極上品。極限の摩擦を発生させれば、アリシアの拳など一瞬でズタズタに削り削り削り取られ、自滅するはずだった。
だが、二人の攻撃と防御が交錯した、まさにその瞬間
「……なっ……!? 拳が、滑らない……!? 離れない……!?」
メイの顔から、余裕の笑みが引きちぎられた。
アリシアの拳がメイの服に触れた瞬間、摩擦最大によって跳ね上がった超高熱が、アリシアの手に巻かれた生地を焼き付けたのだ。
「グラスファイバーっていうくらいだし、ガラスでしょ!?」
グラスファイバーの主成分は、文字通りガラスの微粒子。
メイが発生させた圧倒的な摩擦熱によって、アリシアの手の生地に含まれるガラス成分が一瞬で融解し、粘着質な高熱ドロドロの液体となってメイのケブラー服へと強固に『溶接』されたのだ!
「なっ……熱で服同士が引き溶けて……くっついた……!?」
「へへっ……! くっついちゃえば、摩擦ゼロも最大も関係ない!!」
滑ることも、削り切ることもできない。完全に「固定」されたメイの身体へ、アリシアの乗せた全体重と怪力がダイレクトに伝播する。
逃げ場を失ったメイの腹部を、アリシアの拳がそのまま容赦なく打ち抜き――!
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!?」
そのままの勢いで、アリシアはメイの身体ごとグラウンドの土へ向かって、豪快に拳を撃ち抜いた!




