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第85話:削れぬ硬度と熱の檻

メイの足元から、微かに香ばしい熱気が漂っていた。

普通なら、これほどの超高速や急停止を繰り返せば、靴底など一瞬で摩擦熱に焼き切られ、見る影もなくズタズタになるはずだ。しかし、メイが履いている靴のソールは一変の傷すらすついていなかった。



「硬いものは削っても粉が出るだけ。それどころか、そのエネルギーを熱に変換しますわ」



メイは呆れるほど平然とした顔で、靴の先端でトントンと地面を叩いた。よく見れば、彼女の足元を包むのはただの革靴ではない。ソールから靴底にかけて、鈍い銀色の光沢を放つジュラルミンが精密に補強された特注品だ。



「硬ければ、皮膚まで通らないってことね」



アリシアは思わず毒づいた。メイの『摩擦操作』の能力は、自分自身の足元を無傷に保つ仕組みまで完璧に計算し尽くされている。



「いくらこの学校の服がグラスファイバーで出来てると言っても、それ以上の強さの摩擦ではどうしようも出来ませんわ」



メイの言葉は不快なほど正論だった。この学校の制服は防刃・防弾性能を備えた特殊繊維だが、極限まで高められた摩擦力の前には無力だ。触れた瞬間、生地ごと皮膚をヤスリで削り取られるような激痛が走る。

アリシアは拳を強く握り締めながら、冷や汗が背中を伝うのを感じていた。



(パンチしても、その場所の摩擦を0にされればスッポ抜けるし……逆に摩擦を最大にされたら、接触したこっちの手がズタズタになる……どうすれば……!)



攻撃すること自体がリスクになる。接近戦を仕仕掛けた瞬間、メイの手の中で制動と滑脱を自由にコントロールされ、自滅させられるのが目に見えていた。



「どうしましたの、アリシア? 攻めていらっしゃらないなら、こちらから参りますわよ?」



メイが軽やかに一歩を踏み出す。その靴底のジュラルミンが地面と擦れ合い、かすかな金属音とともに熱気を巻き上げた。アリシアは一歩後退しながら、必死に思考を巡らせる。摩擦を操る相手に対し、打撃も掴み合いも通用しない。この完璧に見える『熱と滑脱の要塞』を突破する突破口は、一体どこにある――。

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