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第84話 摩擦ゼロのその先

激しい打撃音が甲高い風切り音へと変わる。

アリシアの視界の中で、メイの繰り出した蹴りが不自然なほど滑らかな軌道を描いた。接触したはずの衝撃はどこにも存在せず、まるで氷の上を滑るように攻撃の軸が逸れていく。



(メイの蹴りは0摩擦でスッっぽぬける――!)



相手の攻撃力を無力化する『摩擦ゼロ』の防御と移動。

そう分析したアリシアが体勢を立て直そうとした、まさにその一瞬だった。



「――最大!」



鋭い叫びとともに、メイの靴の表面に異様な高圧の空気の層が生まれ、歪んだ陽炎となって揺らめいた。



(魔力が集中してる……!?)



アリシアの直感が警鐘を鳴らす。急ぎ距離を取ろうとバックステップを踏んだが、遅かった。

メイの足先が、ほんのわずかにアリシアの太ももをかすめただけだった。

接触は『掠った』程度に過ぎない。しかし、次の瞬間に弾けたのは恐ろしい破壊の衝撃だった。



「くっ……ぁあっ!?」



掠った箇所のスカートは一瞬でズタズタに引き裂かれ、その奥の肌にはまるで無数の刃で切り刻まれたような凄惨な傷が刻まれる。血飛沫が舞い、アリシアはたまらず膝をついた。

かすめただけで、この威力を叩き出す物理法則を無視した現象。

片膝をつき、呼吸を乱すアリシアを見下ろしながら、メイは靴底から立ち上る熱気を静かに逃がす。



「……消した摩擦を一部分に集中させる。コレが――『スレスレの擦れ(摩擦最大)』」



零を極めたからこそ辿り着いた、極大の摩擦エネルギー。

メイの掲げた足には、まだ恐ろしいほどの熱気が残されていた。

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