第83話:摩擦ゼロの死角
「ほーっほっほ! 攻撃が通らないのは、何も私を守るためだけではありませんわ!」
メイは高らかに笑いながら、地面に向かって身を躍らせた。
「ゆきますわ! 【スライディング・タックル】!!」
メイが背中からグラウンドへと倒れ込む。通常であれば土と服が擦れ合い、勢いが殺されるはずの動作。だが、彼女が宙を滑るように爆絶な速度でアリシアの足元へと急接近してくる!
(背中の摩擦をゼロにして、ソリみたいに滑り込んできてるんだ!)
アリシアは瞬時にその突進を見切り、大地を強く踏み込んだ。
「そんなの、ジャンプで避ければ――」
「――にゅ!?!?」
アリシアの足元が豪快に空を切り、そのまま背中から盛大に土土へと転がり落ちた。まるで氷の上に不意に飛び乗ってしまったかのような、見事な転倒劇。
「あいたた……っ、な、なにこれ!? 全然踏ん張りが効かないよ!?」
アリシアが慌てて立ち上がろうと手をつくが、その手すらも地面を捉えられず、ぬるぬると滑ってしまう。
「ふふふ、引っかかりましたわね!」
滑走するメイが、勝利を確信した笑みを浮かべる。
「背中の摩擦だけではありませんわ。私が狙ったのは……このグラウンドの地面一帯の摩擦ですのよ!」
地面の摩擦係数が『完全なゼロ』になれば、人間は足で大地を蹴ることができない。蹴る力が地面に伝わらず、反作用を得られないため、ジャンプはおろか走ることすら不可能なのだ。
「そんなのズルいよーっ! ……でも、地面を踏み切れないなら、しゃがんだまま蹴りくらいなら――!」
アリシアは咄嗟に身を丸め、迫り来るメイに向けて倒れ込みながらも足を突き出そうとした。
しかし――立ち上がれない体勢、踏ん張りの効かない土の上。
勢いを殺す摩擦がどこにも存在しないメイの超高速スライディングが、逃げ場を失ったアリシアの全身へと容赦なく襲いかかる!
「無駄ですわ! 滑走する私の慣性エネルギー、丸ごと受け取りなさぁい!!」
絶対的スライディングが、無防備なアリシアを打ち砕く――!




