第80話:欠番の「1位」
「ふぅ……雑巾がけなんて、スパーク財閥の令嬢たるワタシがすることではありませんのに!」
「まぁまぁエリカ、床がピカピカになると気持ちいいよ!」
室内でアリシアとエリカがせっせとモップや雑巾を動かしている騒がしい音を背後に聞きながら、サクラとレインは、半壊した扉の外の静かな回廊へと身を寄せていた。
例示学園生徒会を統治していた『6人の絶対的な実力者』。
だが、その序列は現在も7位から2位まで。――最高位であるはずの『1位』は、未だに誰もその正体を知らない
サクラは手すりに寄りかかり、電子タバコの紫煙をくゆらせながらポツリと呟いた。
「……で? 1年ぶりの犯人探し、かい?」
「ええ」
レインは、包帯の下の傷跡をそっとなぞる。
「ミカムラと拳を交えて、確信しましたわ。あの『魔の7日間』……やはり、何かがおかしかったのです。当時の生徒会長は、明らかに普通じゃありませんでした」
「……まぁね。豪快な人だったけれど、万年2位を気にするような、ちっぽけな人だったしね。……でも、プライドが高かっただけで、私怨で人を殺すような奴じゃなかった。それは確かさね」
サクラの脳裏に、かつて共にテーブルを囲んだ、傲慢だがどこか憎めなかった元・生徒会長の姿がよぎる。あの密室で、彼女はまるで何かに憑りつかれたかのように狂い、牙を剥いたのだ。
「それに、当時の副会長もですわ。彼女はいつも『自分の身は自分で守れ』と冷たく突き放す御仁でした……。あのユウさんすら、危機に陥っても見捨てたような冷酷な人が――」
「アタシたちを助けた……。命を懸けて、ね。確かに、これまでのあいつの生き方からすりゃ、筋が通らなさすぎるさね」
サクラの瞳が、煙の向こうで鋭く細められた。
「……当時の2位(会長)と3位(副会長)が、狂ったように殺し合い、相討ちになった。その結果、生き残ったのが3人。……役者は揃っていたはずなのに、どうにも『台本』が不自然極まりない」
「仕組んだ者がいるとすれば、それは……。あの密室にいなかった、あるいは――」
レインの言葉が、途中で止まる。
頭上に掲げられた「生徒会役員表」の最上段。
空欄のまま、誰も触れることのなかった【序列1位】の文字が、二人の頭上に不気味な影を落としていた。
あの地獄の7日間を裏で操り、2位と3位の精神を歪ませてコロシアイを誘発した「真の黒幕」は、今もこの学園のどこかに潜んでいる――そう感じさせた。




