第77話:殴り合いのショーダウン
「ふ、ふぅーっ……、ふぅーっ……!」
「はぁ、はぁ……ッ!」
超常の力をすべて捨て去った最上階のリング。
美しく、そして猛々しい二人の少女は、ただ己の拳だけを頼りに、泥臭く激突し合っていた。
レインの右ストレートがミカムラの頬を歪め、ミカムラの鋭いボディブローがレインの腹部を深く抉る。
華麗な制服は破れ、額からは真っ赤な血が滴り、互いの顔は青あざだらけになっていた。普段の彼女たちからは想像もつかない、ただ衝動と魂だけをぶつけ合う、凄絶にして最も純粋なショーダウン。
「どうしたレイン……ッ! 完璧なお嬢様の拳は、随分と軽いんじゃないかい!?」
「くっ……! 貴女こそ、その程度の執念で、ユウさんの名を背負っていると言えますの!?」
ミカムラの左フックがレインのガードを弾き飛ばし、レインの掌底がミカムラの顎を跳ね上げる。
もう、そこには憎しみも、復讐も、学園の覇権争いすらも存在しなかった。ただ、一年前のあの日から時を止められたままの少女たちが、泣きじゃくる代わりに拳を突き合わせているのだ。
「あはははは! 痛い……痛いよ、レイン! でも、最高に気持ちが良いなぁっ!!」
ミカムラは血混じりの唾を吐き捨て、満面の笑みを浮かべた。その瞳は、ボカロ魔法や怨恨に支配されていた時よりも、ずっと瑞々しく輝いている。
「ええ……! 私も、ようやく……貴女と本気で向き合えた気がいたしますわ!」
レインもまた、傷だらけの顔で、しかし極上の気高さを湛えて微笑んだ。
「――次で、最後だ!!」
「望むところですわ!!」
二人の少女の叫びが、ボロボロになった最上階の空間に共鳴する。
極限まで削り落とされた意識の中、二人は同時に、全ての力を右拳へと宿らせた。
溜めは一切ない。ただ、真っ直ぐに、最短距離で相手を撃ち抜くためだけの軌道。
「おおおおおおおおおーーーーーーッッッ!!!」
二人の絶叫が重なり、互いの右拳が交差する。
――完全なる、クロスカウンター
強烈な肉撃の音が響き渡り、両者の顔面が、互いの拳によって同時に、激しく捉えられた。
「あ……」
「ユ、ウ……」
一瞬、世界がスローモーションになる。
そして、糸が切れた人形のように、レインとミカムラの身体は同時に、ゆっくりと、その場へ崩れ落ちていった。
最上階の冷たい床の上に、両者共に大の字に倒れ伏す。
完全に限界を迎えた両者ノックダウン。しかし、静まり返った広間に横たわる二人の顔には、何一つ濁りのない、晴れやかな笑みが浮かんでいた。




