第76話:終幕への鉄槌
最上階から漏れ聞こえる二人の対話。そして、完全に熱気の失せた静寂。
そのやり取りを、下層のモニター越しに、そして壁一枚隔てた通路で聞いていた萌は、裏切られたような絶望と怒りに顔を歪ませた。
「は……? 許す……? 許すって言うのでござるか、会長……ッ!?」
血に染まった両腕を震わせながら、萌は信じられないとばかりに叫び声を上げた。
「これまでの拙者たちの血と汗は、何だったというのでござるか! 会長のために……シズモト様のために、拙者たちは命を張ってここまで例示学園を食い止めてきたというのに……っ!」
そんな萌の絶叫を、サクラは煙草の煙と共に冷淡に聞き流し、ただ一歩、前へと踏み出した。周囲を縛り付けていた超重力の檻が、心なしか優しく緩んでいく。
「おやまぁ……。話がついて、誤解が解けたならさね。そこをどいてくれないかい、お嬢さん」
「誤解……? 違う! 違うでござる!!」
萌は涙を撒き散らしながら、ふらつく足取りでサクラとココアの前に立ち塞がった。
「拙者たちは、お前たちと全力で戦うためにここにいる! こんな、綺麗事の和解なんかで終わらせてたまるものか! ふざけるな……! ふざけるな、ふざけるなァァァッ!!」
ボロボロの同人誌を掲げ、再びその魂の叫び――【二次元ドリームフィーバー】を展開しようと魔力を練り上げる。
だが。
「なら、一度黙れ」
冷徹極まりない声が、萌のすぐ背後から響いた。
「――え?」
気配すら感じさせなかった。
萌が振り返る暇すらなく、その細い背中に向かって、電光石火の如き速度で『一筋の閃光』が振り下ろされる。
強烈な衝撃波が萌の背中を、そして身体の芯を駆け抜けた。
肺の空気をすべて吐き出させるような一撃。萌の身体は崩れ落ちるように床へと倒れ込み、掲げていた魔導書がカラン……と虚しく転がった。
「が、はっ……あ、れ……?」
薄れゆく意識の視界の端。そこに立っていたのは、いつの間にか最上階から下り、サクラたちの援護に合流していた例示学園副会長――カシウスだった。彼女の手には、冷たく輝く刀が握られている。
「カ、カシウス……っ! お前、いつの間に……!」
ココアが驚き、それから不機嫌そうに牙を剥く。
カシウスは無表情のまま、刀を素早く鞘へと収めた。その冷徹な横顔は相変わらず鉄のようだったが、床に倒れた萌を見下ろす瞳には、無駄な殺生を避ける冷徹な優しさがあった。
「安心しろ。……刃は通していない。峰打ちだ」
「つ、冷たいやつさね……」
サクラがやれやれと肩をすくめ、電子タバコの先端を赤く明滅させる。
静まり返る回廊。
萌が完全に沈黙したことで、最上階へと至る障害は、ついにすべて排除された。
「さて……。上では、二人の『会長』が最後のケリをつけてる真っ最中さね。私たちも、早く行って見届けてあげようじゃないか」
サクラの言葉に、カシウスとココアが静かに頷いた…




