第75話:拳に宿るもの
空間ごとすべてを焼き尽くすほどの白熱の光が、最上階を包み込む。しかし――。
「ぐっ……、う、あああああーーーッ!!」
激しい融解の光の渦の中、ミカムラの絶叫と共に、爆発的な熱量が急速に霧散していった。
光が晴れたそこには、無防備に両腕を広げたままのレインと、その鼻先数センチのところでピタリと拳を止めたミカムラの姿があった。
ミカムラの拳の熱で、レインの美しい前髪が数本、チリチリと焼けて落ちる。だが、それだけだった。
「……何を……? なぜ、私を討たないのですか、ミカムラさん」
レインが静かに目を開け、問いかける。
ミカムラは歯を食いしばり、拳を震わせながら、血の涙を流して叫んだ。
「……妹が、あんたを助けたっていうなら……! ボクがあんたをここで殺したら、ボクは『妹が命懸けで守ったもの』をこの手で叩き壊すことになる……!! そんなこと、あの子への贖罪にも、供養にもなりやしないじゃないか……ッ!!」
ユウへの愛ゆえに復讐に狂ったミカムラは、そのユウへの愛ゆえに、レインを殺すことができなかった。
レインは切なげに目を伏せ、首を振る。
「……ですが、貴女の復讐の炎は、どこへ向けば良いのです? 当時の生徒会序列2位は……あの地獄の7日間で、同じく私を庇って戦った副会長と相討ちになり、既にこの世にいません。……つまり、貴女の復讐を受け止めるべき生き残りは、私だけなのですわ!」
「だったら……!!」
ミカムラは一歩飛び退くと、全身の魔力を完全に霧散させた。周囲をドロドロに溶かしていた核融合の熱波が、嘘のように消え去っていく。
そして、ミカムラは泥臭く、しかし力強く両拳を顔の前に構えた。
「だったら、お互い魔法は無しだ! 魔法の威力じゃなく、ただの人間として、ボクのこの気の済まない感情を受け止めろ!」
ただの、泥臭い『女の子同士の殴り合い』。
それこそが、ミカムラが導き出した、魔法に縛られた過去を清算するための唯一の手段だった。
レインは驚きに目を見張ったが、すぐにフッと優しく微笑み、同じく静かにファイティングポーズを取った。
「……分かりましたわ。それで貴女の気が済むというのなら――喜んで、お付き合いいたしますわ!」
魔導の頂点に立つ二人の生徒会長。
すべての超常を捨て去った二人の、魂を剥き出しにした肉弾戦が今、始まる――




