第71話:空白の盾とシズモトの血脈
「……そんな、馬鹿な……ッ!」
ミカムラは自身の両手を見つめ、驚愕に目を見開いた。
彼女が放つ【|メルトダウン《今日の私はかわいいのよ》】の核融合級の熱量は、最上階の床や天井をドロドロのマグマへと変えている。にもかかわらず、目の前に立つレインには、その狂気的な熱がミリ単位すら届いていないように見えた。レインの衣服の端一つ、髪の毛一筋すら焦げていないのだ。
レインは優雅に佇んだまま、哀れむようにミカムラを見つめた。
「……私の魔法の正体を知りたいですか? 私の能力は、極限まで高められた『空気を操る魔法』……。貴女、魔法瓶って分かりますの?」
「魔法瓶……だと?」
「ええ。内側と外側の間に『完全な真空』を作ることで、熱の伝導を完全に遮断する構造ですわ。私が周囲の空気を完全に排除し、絶対的な真空の壁を構築している以上、貴女がどれほどの熱量を誇ろうと、こちら側に伝わる術はありませんのよ」
熱という現象は、分子の振動を伝える媒体がなければ伝わらない。レインの魔法は、ミカムラの絶対的な天敵とも言える「熱伝導の完全拒絶」だった。
「クソ……ッ! どこまでボクをコケにすれば気が済むんだ……!」
ミカムラが歯を剥き出しにして、憎悪の籠もった声を絞り出す。
「その冷徹な力で……その完璧な力で……! ボクの妹を……殺したのか!!!」
「――殺す?」
レインの美しい眉が、初めて不審げに跳ね上がった。
「一体……何の話を?」
その時だった。
突如として、激しいノイズと共に最上階のモニター、そしてネオ公会堂内に設置されたすべてのテレビ画面が一斉に起動した。
下層の回廊。
艶の看病をしていたイザヨイが、壁のモニターを見上げてぽつりと呟く。
「……ついに来たか」
血まみれの腕でサクラの重力に耐えていた萌も、歪んだ笑みを浮かべた。
「はは……これで全てわかる。拙者たちの戦いの意味が……現実になるでござるよ」
画面に映し出されたのは、ノイズ混じりの古い事件の記録映像。
それを見つめながら、ミカムラは血の涙を流さんばかりの形相で、自身の秘められた本名を叫んだ。
「白々しい態度を取るなレイン!! ボクの本当の苗字は『シズモト』……! あの『魔の7日間』で犠牲になった、シズモト・ユウの姉だ!!!」
遮断された熱の向こう側で、過去の因縁が、最悪の形で牙を剥いた。




