第7話:胃壁の防衛ライン
監視ルームの巨大モニターを見つめる生徒会長の眉間に、深い皺が刻まれた。
「……エリカ。貴方が、あんな新入りの隣に……」
会長の脳裏に、かつて「初心者狩り」として冷徹に学園の秩序を守っていたエリカの姿がよぎる。それが今や、ボロボロの扇子を握りしめ、泥臭い戦いに身を投じている。その変節は、会長にとって計算外の事態だった。
一方、重力場の中心。アリシアの額からは滝のような汗が流れ落ちていた。
「……そういえばアリシア! 貴方の肉体強化で、胃袋を内側から補強することは出来ませんの!?」
エリカが魔力をアリシアの背中に流し込みながら叫ぶ。
「できないよ……! あくまでも外側の筋肉を硬くするだけ。刃物を防ぐことはできても、体内の毒まで治すことはできない。しかも……」
アリシアは苦悶に顔を歪め、二段目のサンドイッチを力任せに掴んだ。
「外側を固めれば固めるほど、内側への反動は……もっとキツくなるの!」
外壁を鉄壁にしても、内部で爆弾が爆発すれば被害は甚大。それがアリシアの『肉体強化』の弱点だった。
「下からですわ! こういう時は、セオリー通りとりあえず下から取る!」
「うん! わかった!」
アリシアは重力に抗い、震える手でキュウリのサンドイッチを口に押し込む。シャキシャキとした食感とともに、微かな清涼感が喉の焼け付くような痛みを和らげた。
「……間に合うかもしれませんわね。食べ続ければ、ですけれど」
セレナは優雅に椅子に腰掛け、脚を組み替えた。その視線の先では、重力魔法の出力が一段階上がっている。
「サンドイッチのカリウム成分が、一段目のラズベリー毒をわずかに希釈しましたわね。ですが、次は三段目のスコーン……水分を奪う『乾きの罠』が貴女を待っていますわよ」
アリシアの視界がチカチカと点滅する。
毒の相関図が、薪割りの経験則で脳内に描かれる。
「……わかってる。タルトの毒を完全に中和するには、四段目の『レモンケーキ』の酸が必要……それまで、この胃袋を持たせてみせる!」
「無茶ですわ、アリシア! 重力加速度はもう通常の3倍を超えていますわよ!」
「最強になるって……決めたんだから! これくらい、『腹筋キャンプ』に比べれば……!」
アリシアは重力によってミシミシと鳴る骨の音を無視し、スコーンへと手を伸ばした。それはもはや優雅なティータイムではない。一皿ごとに命を削り、体内の化学反応を制御する、超高速の「生存競争」だった。




