第67話:星の重み
「ヒッ、ヒエェェェ……ッ! 拙者の世界が、拙者の設定が壊れるーーーっ!」
萌が頭を抱えて悲鳴を上げる。
サクラが『ただの幻影だ』と認識したことで、【二次元ドリームフィーバー】の空間そのものが、まるでノイズの走る古いモニターのように激しくブレ始めた。
「……まぁ、タネが割れたところでさね」
サクラは咥えていた電子タバコを指で挟み、ふぅ、と天井に向けて煙を吐き出した。その瞳が、妖しく黒い光を帯びる。
「きみの魔法が『虚像』なら――アチシの魔法は、この世で最も絶対的な『現実』さね」
サクラの背後の空間が、ぐにゃりと歪んだ。
その瞬間、萌の二次元空間ごと、公会堂の床、壁、そして空気そのものが凄まじい大質量に押し潰されるように軋み始めた。
――サクラの固有魔法。それは、あらゆる物質や空間に絶対的な質量を強いる『重力』の支配。
「うぐっ……!? が、身体が……地面にめり込むでござる……ッ!?」
萌は同人誌を放り出し、床に両手をついて這いつくばった。ただの精神的なプレッシャーではない。実際に自重が数十倍に跳ね上がり、指一本動かすことすらままならない絶対的な物理重力だ。アニメの集中線も、作画崩壊のロボットも、すべてが重力の底へと叩き落とされ、ペシャンコに潰れていく。
「フシャアッ! 相変わらずサクラさんの重力はえげつないでチュわね! でもアタチのフリルまで重くなるから、ちゃんと味方識別してくだチャイ!」
ココアだけは重力圏の外で、身軽に爪をギラつかせながら跳ねる。
「悪かったさね。ほら、ココア、とっとと片付けな」
「言われなくても、あの生意気な眼鏡ごと、ミンチにしてやるですわァァァッ!!」
サクラの放つ絶望的な重力の檻の中で、完全に身動きを取れなくなった萌。その目の前で、ココアの超硬質な魔力爪が、冷酷な弧を描いて振り下ろされた!




