第66話:虚像の痛み
「ふぅ……。やっぱり……弱いさね、きみ」
サクラは煙草の煙を吐き出しながら、冷ややかな視線を萌へと向けた。その態度には、恐怖も焦りも一切ない。ただ、退屈なものを見るような諦念だけがあった。
「な、何を言うでござるか! 拙者の『推し』の尊さを、そんなヤニ吸い女に否定されてたまるもんですかーッ!」
萌が激昂し、同人誌を全力で振りかざす。空間のネオンカラーがより一層激しく輝き、サクラの頭上から、最大出力の『萌えの極太ビーム』が容赦なく降り注いだ。
光の濁流がサクラの全身を完全に飲み込み、彼女の姿を光の彼方へと消し去る。
「フヒッ……フヒヒヒ! 拙者の勝ちでござる! いくら裏社会の人間とはいえ、高次元の超エネルギーをまともに喰らえば消滅は免れん――」
「――なっ!」
萌の勝ち誇った笑みが、一瞬で凍りついた。
光線が晴れたそこには、服の裾一つ焦がすことなく、平然と電子タバコを燻らせ続けるサクラの姿がそのまま残っていたからだ。
「……な、なんで無傷なんですの!? 拙者のビームは、公式設定資料集基準の威力のはず……っ!」
サクラは歩みを止めず、呆れたように首を振る。
「脳みそが『本物みたいだ』と誤認したら、肉体にも本物の傷がつく。……きみの魔法は、強力な『幻影』を生み出すものだろ?」
「……っ!?」
「だから、最初から『ただの幻影だ』と完全に理解して、認識すらしなければ――そんなビーム、ただの綺麗なライトショーと変わらないさね」
サクラの超然とした「冷徹な現実」の前では、萌の命懸けの妄想も、ただのホログラムに過ぎなかった。
「なるほど、まさしく『虚像の痛み』でちゅね!」
横から躍り出たココアが、獲物を見つけた猛獣の笑みを浮かべる。サクラの言葉で、萌の結界の『仕掛け』は完全に割れた。騙される者がいなくなった妄想の世界など、ただの張り子の虎だ。
「ヒッ、ヒエェェェ……ッ!」
アクリルスタンドの盾が、サクラの放つ現実の威圧感によってパリンと音を立てて内側からひび割れていく。ココアの血に飢えた魔力爪が、怯える萌の眼前にまで迫っていた――!




