第63話:魔の7日間の影
「負けた……。わたす、また……あの時みたいに、全部奪われて……負けたんや……」
爆炎が晴れた床の上で、艶はズタズタになった着物のまま、力なく呟いた。カミソリの桜はすべて消え去り、かつて失恋した時のように、ただ虚しく虚空を見つめている。
エリカは超振動扇子の出力を下げると、ゆっくりと艶を見下ろした。その瞳には、いつもの傲岸不遜な令嬢の冷徹さではなく、どこか深い哀愁が混じっていた。
「負け……。だとしても、今の貴方には仲間がいるではありませんか。……私は一度、仲間を見捨ててしまったことがあるから」
「……っ!?」
艶はハッと目を見開き、信じられないものを見るようにエリカを凝視した。
「……いったい貴方は……何を知っているんどすか……?」
「どういう意味かしら?」
エリカが眉をひそめる。
しかし、艶はそれ以上語ろうとせず、自嘲気味に口元を歪めた。
「さあ……。それは我らが会長にききなはれ……。わたすの口からは、恐ろしくて言えへんわ……」
「ちょっと二人とも、どうしたのさ! しんみりしてる場合じゃないよ、早く前に進むよ!」
アリスが回廊の奥を指差しながら急かす。
その時、背後の床のハッチがガシャリと開き、下から聞き馴染みのある、のんびりとした声が響いた。
「ふぅ、やっと上がってこれたぁ……」
「アリシア!?」
エリカとアリスが同時に振り返る。そこには、地下で大暴れした直後だというのに、ホコリを少し払っただけですっかり元通りの元気なアリシアの姿があった。
その穴の奥から、イザヨイもまた疲れた様子で顔を覗かせる。
「アリシア、イザヨイさんは一緒に行かないの?」
「ワイは行かへんよ。……こいつの看病や。ボコボコにされて可哀想になっとるしな」
イザヨイはふん、と鼻を鳴らしながらも、倒れている艶の側に歩み寄り、その肩を支えた。
「そう……じゃあ、私たちは先に行くね! イザヨイさん、ありがと!」
アリシアは笑顔で手を振ると、エリカとアリスを促して、生徒会室へと続く最深部の扉へと進んでいった。
彼女たちの足音が遠ざかり、静寂が戻った回廊で――。
「……雷電寺エリカ……」
イザヨイが、去っていったエリカの背中があった場所を睨みながら、ぽつりと呟いた。
「あいつ……確か、会長が言ってたな」
艶が、腫れた顔のまま、震える声でイザヨイの言葉を引き継ぐ。
「……せや。あの『魔の7日間』の生き残りや……」
この学園対抗戦の本当の目的が、ついに最上階で交錯しようとしていた。




