第55話:壁、崩壊の音
「へっ……変態だ!!!」
アリスが顔を真っ赤にして叫ぶ。その形相は、まるで不審者を見た時のような完全なる拒絶だった。
「……アリスさん、あんたが言うか……?」
エリカが呆れ果てた視線を向ける。それもそのはず、アリスには過去、アリシアに男だと誤解された際、『証明してあげるよ』と言い放って胸を大胆に触らせたという、歴史的な前科がある。ツッコミを入れたエリカの言葉には、深みがあった。
「おや……? その前科、ちゃんと調査済みやで。アリスちゃん、可愛い顔して意外と大胆なんやなぁ。うふふ、ゾクゾクするわぁ」
艶は電子タバコを指で弄びながら、アリスの過去の行状を的確に突いてきた。
「……っ!? な、なんでそれを知ってるのよ!」
その時、空間に不思議なノイズが走った。
なっ……私と会話……だと!?覚醒が近いのか!?
「……ん? 今、誰か変なこと喋らんかったか?」
この物語を綴るはずの『地の文』が、思わず登場人物の会話に介入してしまった。このネオ浜松の公会堂、魔法の概念強度が強すぎて、ついに現実の境界まで侵食し始めているらしい。
「まぁいいですわ! とにかくこの変態、話が通じそうもありませんし、強引に排除しますわよ!」
エリカが冷静さを取り戻し、扇子をバチリと閉じる。
「アリス、さっきのドレインの感触……あいつの『百合』エネルギー、私たちの魔力と極めて相性が悪いですわ。……いえ、これ、私たちの勝ちですわ!」
エリカが不敵に笑う。
エリカの規律正しいプライドと、アリスの野生的な強欲。この二人の『強すぎる自己肯定感』は、艶が振り撒く『狂わせる桜の魔法』を、逆に自分の養分として食い尽くすか、あるいは精神汚染を論理で粉砕できる、究極のメタ・アンチだった。
「せやな。他人の恋路を狂わせるなんて、趣味が悪すぎるよ。……ねぇ変態さん、ボクたちの愛はそんな薄っぺらな煙ごときで汚せるものじゃないよ!」
「おっ……お熱いのはええけど、それが一番美味しいんや……! 踊りな、百合の園で死ぬまで!」
艶の背後から、桜吹雪が嵐となって吹き荒れる。
エリカの『厳格な規律』vs艶の『歪んだ愛』
アリシア不在の最悪の相性、その決着の時が近づいていた!




