第50話:泥濘の包囲網と、狙われた死角
「これ以上は喋り損や! 弱点が分かったところで、この物量を押し切れると思うなやぁ!!」
イザヨイの絶叫と共に、地下空間の空気が一変した。
『同時に動かせる量に制限がある』とはいえ、目の前の一人に全てを集中させた『変幻自在』の最大火力は凄まじい。
アリシアの視界を埋め尽くすように、前後左右、そして頭上の天井からも、うねうねと蠢く巨大な泥の波が押し寄せる。それだけではない。
「下からも、そして横からも……っ!」
アリシアがステップを踏もうとした瞬間、文字通り足元の生土が底なし沼のように変形し、彼女の自慢の駿足を絡め取ろうと這い上がってきた。
さらに左右からは、鋭利な槍の形に硬質化された泥の突起が、逃げ道を塞ぐように交差する。
四方八方からの完全なる同時波状攻撃。
アリシアは咄嗟に身を翻し、上空からの泥の塊を強烈なハイキックで粉砕するが――。
ガツンッ!!
「しまっ……!」
着地の瞬間、彼女の両腕に未だへばりついている、あの最初に固められた超重量粘土がコンクリートの破片に激突し、アリシアの身体のバランスを大きく崩させた。
いくら足が動くとはいえ、上半身に何百キロもの『デッドウェイト』を抱えた状態での連続回避。野生の勘をもってしても、肉体の構造的な限界は誤魔化せない。
「ハハハハ! やっぱりな!!」
泥の波の上に乗ったイザヨイが、勝ち誇ったようにアリシアを指差した。
「どれだけ異次元の脚力しとんか知らんけど、その両腕の重りは消せへん! 技を繰り出すたびに、一瞬だけ重心がブレとるんや! 動きのキレがさっきより確実に落ちとる、その腕のせいで鈍い!!」
イザヨイの言う通り、アリシアの額からは大粒の汗が流れ落ちていた。
動きを見切られ、さらに泥の包囲網は狭まっていく。絶体絶命の窮地の中で、しかし、アリシアの瞳の奥の炎は、まだ微とも消えていなかった。




