第49話:泥人形の裏ルール
無限に湧き出す土の触手を、アリシアは流れるようなステップと凄まじい蹴撃だけで叩き落としていく。だが、ふと何かを思い至ったように、アリシアは戦闘の最中だというのにピタリと足を止め、首を傾げた。
「ねぇ……1つ聞いていい?」
「なんや? 命乞いなら受け付けへんで!」
イザヨイは警戒しつつも、泥の攻撃の手を少し緩める。
「私をこの大量の泥で一気に包んじゃえばいいのに? なんでそうしないの? その方が確実に私を窒息させるか、完全に固めて動けなくできるでしょ」
「へ? えーと……つ、つまらんからやで? ワイはタイマンでド突き合いたいって言うたやろ!」
イザヨイは一瞬、目をごまかすように泳がせ、慌てて語気を強めた。
そのわずかな動揺を、アリシアの野生の勘は見逃さない。
「もしかして……同時に動かせる泥の量とか、形には『制限』がある?」
「……っ!」
イザヨイの表情が目に見えて強張った。
彼女は苦々しそうにフンと鼻を鳴らし、頭をガリガリと掻く。
「……少し違うで。でも、観ているところは正しいで? さすが、ただの脳筋やないみたいやな」
「ふーん、なるほどね」
アリシアは納得したように微笑んだ。
(やっぱり。いくら地下が土むき出しだからって、無限に完璧な泥人形を作れるわけじゃないんだ。これだけの広範囲を一人でコントロールするのは、彼女にとってもかなりの魔力と集中力を使うはず。……それも、私を他のみんなから離して、この地下に『一人にした理由』の1つかな。周りに大勢いたら、術式が維持できなくなるんだ)
こちらの思考を察したのか、イザヨイは泥の触手を再び禍々しくのたうち回らせ、アリシアを鋭く睨みつけた。
「一様言っとくが、これ以上の細かい条件は教えへんで?」
「なんで?」
アリシアが素朴に問い返すと、イザヨイは
「当たり前やろ!」
とツッコミを入れるように叫んだ。
「不利になるに決まっとるやろ!! 誰が自分の魔法の弱点をわざわざ敵に教えるんや!」
「あはは、それもそうだね!」
アリシアは悪びれもせずに笑うと、再び低く身を構えた。
弱点がある。それさえ分かれば、この重い両腕を逆手に取った『一撃』を叩き込む算段は、すでに彼女の脳内で肉体ロジックとして完成しつつあった。




