第5話:戦闘は野蛮!?テーブルマナー!
『初心者狩り』を、転校初日の無名令嬢が粉砕した。そのニュースは、悪役令嬢専用のSNS『ヴィラン・ハブ』を瞬く間に駆け巡り、アリシアの名は不名誉な期待とともに広まっていった。
「あんた……いったい何人葬ってきたのよ、あんな戦い方で」
廊下を歩きながら、アリシアは隣で『二つ名候補:剛拳の白百合』というフリップを自作しているエリカに呆れた視線を送った。
「……数えていたらキリありませんわ。悪役令嬢としての矜持を持たぬ者に、引導を渡すのが私の役目でしたから」
エリカが遠い目で答えたその時、廊下の空気が一変した。
甘く、しかし脳髄を痺れさせるような濃密な香気。前方から、銀のトレイを完璧な角度で保持したメイドロボを従え、一人の令嬢が優雅に歩み寄ってくる。
「貴方がアリシア様?」
鈴の鳴るような声。だが、その瞳は笑っていない。
「そうだよ!」
アリシアは反射的に右手に魔力を込めた。いつでもチョップで迎撃できるよう、筋肉が微細な振動を始める。だが、現れた令嬢は扇子を広げて口元を隠し、クスクスと肩を揺らした。
「あらあら……野蛮ですわね。拳に頼るのは、教養のない獣のすることですわ」
アリシアが眉をひそめて問い返す。
「何者?」
「貴方が来るとはね。『鍋奉行』……!」
エリカの声に緊張が走る。
「ごきげんよう。そしてお久しぶりエリカ様、私は生徒会広報、セレナ。この学園では、ただ泥臭く戦うだけでなく、令嬢としての『素質』も求められますの」
セレナが指を鳴らすと、廊下の壁がスライドし、最新のホログラム投影によって豪華なティーサロンが構築された。中央には、大理石のテーブル。その上には、幾層にも重なり、物理法則を無視して高くそびえ立つ『悪魔のミルフィーユ』が鎮座している。
「さあ行きましょう? 私の『テーブル』へ……。アリシア様、貴女がもし最強を目指すと言うのなら、この『崩さず、汚さず、優雅に完食する』という試練、受けていただきますわよ」
セレナは銀のスプーンを、まるで騎士の剣のように構えた。
「この学園の食事作法は、現代魔法に基づいた『重力制御マナー』。一口運ぶごとに、重圧が貴女を襲いますわ。……さあ、フォークをお取りになって?」
「……よくわかんないけど、食べて勝てばいいってことね?」
アリシアは差し出されたフォークを握りしめた。薪割りの要領でケーキを切っていいものか、彼女の「悪役令嬢」としての勘が激しく警鐘を鳴らしていた。




