第4話:影と二つ名
爆音とともに、エリカのサイバー扇子がひしゃげ、火花を散らして床に転がった。
アリシアの手刀は、魔法で強化された超合金の骨組みを真っ向から分断していた。ジェットパックの推進力を利用した突撃も、アリシアの足腰の踏ん張りの前には、そよ風に等しかった。
「な……ッ!?」
エリカが驚愕に目を見開いた瞬間、アリシアの掌が彼女の胸元――ジェットパックの制御ユニット――を優しく、しかし確実な力で叩く。
過負荷を起こしたユニットが強制終了し、エリカの体は勢いよく後方の壁まで吹き飛んだ。背中のメカからパチパチと頼りない放電音が響き、廊下に沈黙が訪れる。
アリシアは乱れた制服の襟を正し、ゆっくりと歩み寄った。
「……っ。はぁ、はぁ……貴方、ただの令嬢ではありませんわね」
エリカは壁に背を預けたまま、自慢のドリルロールをぐちゃぐちゃにして苦笑した。その瞳には、敗北の悔しさよりも、得体の知れない怪物に出会ってしまった興奮が宿っている。
「私はアリシア。最強の悪役令嬢になる存在よ」
そのまっすぐな宣言を聞いた瞬間、エリカの肩が震えだした。
「……ふふっ。ははは! いいですわ、海○王とか○牙みたいで燃えますわ! その無茶苦茶な理屈と暴力、まさに『悪』の素質に溢れていますこと!」
「そう? 普通のこと言ったつもりなんだけど」
アリシアが不思議そうに首を傾げると、エリカはフラつきながらも立ち上がり、折れた扇子を誇らしげに掲げた。
「ええ! そうとなれば、二つ名……必要ですわね! 悪役令嬢たるもの、畏怖を込めて呼ばれる名があってこそですわ!」
その喧騒を、校舎最上階にある豪華な監視ルームから眺める影があった。
壁一面のモニターには、アリシアの戦闘データと、破壊された廊下の修繕見積もりが映し出されている。
「あれが……ヴァレンタイン家の……」
重厚な革張りの椅子に深く腰掛けた生徒会長が、低く、冷徹な声で呟いた。傍らに控える副会長が、眼鏡のブリッジを押し上げながら答える。
「いかがなさいますか? 現在の学園ランキング1位、あの方の足元にも及びませんが……」
「……しかし……」
「ええ、同感です。鍛えれば、いずれは貴方の座にまで届く可能性がある」
会長の口角が、ゆっくりと、しかし凶悪な角度で吊り上がった。
それは、会長がかつて伝説の『ボー○ボ』を視聴し、理不尽な暴力の美学に打ち震えて以来、数年ぶりに見せた『心からの笑顔』だった。
「面白い。例示学園の序列、この転校生が壊してくれるかもしれませんね……」
モニターの中では、アリシアがエリカに連れ回され、怪しげな『二つ名リスト』を突きつけられて困惑していた。
最強への階段は、まだ一段目を踏み出したばかりである。




