第3話:鉄火場のデピュタント
激突の衝撃が、廊下の強化ガラスをビリビリと震わせた。アリシアの拳とエリカのサイバー扇子が競り合い、火花がアリシアの頬をかすめる。
「なるほど……肉体強化ですのね。古臭い技術だと思いましたけれど、その出力、侮れませんわ」
エリカは背中のジェットパックから青白い炎を噴かせ、その推進力を扇子に乗せて押し戻そうとする。対するアリシアは、平然とした顔で拳を突き出したまま、一歩も退かない。
「これ、結構便利でね。手に魔力を込めれば、チョップするだけで木が倒れるんだ。薪割りの効率が上がって助かってたんだけど、まさか人間相手に使うことになるとは思わなかったな」
「薪割り!? 公爵家の令嬢が何を……っ!」
エリカは一旦バックステップで距離を取ると、扇子を優雅に、かつ鋭く振りかざした。扇子の骨組みに内蔵された回路が赤く発光し、大気中の熱エネルギーを吸い込んでいく。
「フェアにいきましょう。私の魔法は『エネルギーを物質に与える』こと。この超振動扇子も、そしてこの高出力ジェットパックも、私の魔力によって物理法則を超えた破壊力を生み出しますの!」
エリカの体が、廊下の壁を蹴って弾丸のように飛んでくる。加速、加速、さらなる加速。それは可憐な令嬢の動きではなく、迎撃ミサイルの軌道に近かった。
その異様な光景に、遠巻きに見ていた生徒たちがざわめき始める。彼女たちは手元のタブレットで戦況を実況しながら、冷ややかな視線を投げた。
「見てくださいまし! 初心者狩りエリカ様が、またやってらっしゃいますわ」
「お可哀想に。あの転校生、初日で退学かしらね」
風を切る音の中に混じったその言葉を、アリシアの耳は鋭く捉えた。
「『初心者狩り』……?」
「そうですわ! 私は『初心者狩り』……! 夢と希望に燃えて門を叩いた新入生を、その初日に完膚なきまで叩き潰し、悪役令嬢という道の厳しさを刻み込む者ですわ!」
エリカの扇子が、アリシアの首筋を狙って横一線に振り抜かれる。
「期待外れな新入りを掃除するのも、立派な悪の務め! さあ、膝をつきなさいな!」
「へぇ……。初心者相手にイキるのが、あんたの言う『悪役令嬢』なんだ?」
アリシアの瞳から温度が消えた。おじい様が言っていた「最強」とは、そんな小賢しいものではなかったはずだ。
「悪いけど、私は初心者じゃないわ。薪割りに関してはプロなんだから!」
アリシアはあえて踏み込み、その細い手刀をエリカの扇子の面へと叩きつけた。
金属がひしゃげる不吉な音が、高級な廊下に虚しく響き渡った。




