第45話:影の嘘と、相打ちのリンゴ
「これで終わりよ。落ちろ!!」
エヴェリンが指先から放った『銀の弾丸』が、閃光となって暗黒へと肉薄する。
勝負あり――誰もがそう確信した、その刹那。
「……ククク、甘い、甘すぎるわ関東の『銃妄想』ォ!!」
暗黒の体が不気味に歪み、銀の光がその胸元を完全に透過した。いや、透過したのではない。彼女の体が、床に落ちる『黒い影』そのものへと変貌し、弾丸の軌道から完全に消失したのだ。
「な、何っ……!? 霊体化ではない……!?」
エヴェリンの無表情が、初めて驚愕に歪む。
「そうや! ワイの『ゴーストルール』の真髄は、体を霊体にすることやない……! 自分自身の存在を『影』そのものに置き換える、極大のペテンや! 光から生まれた銀の弾丸など、最初から影には触れられへんのや!」
床を這う影が、目にも留まらぬ速さでエヴェリンの足元へと伸びる。
気付けば、暗黒の影はエヴェリンの影と完全に同化し、彼女の肉体の自由を奪っていた。
「捕まえたで、エヴェリン! こうなったら、お前もろとも自爆やァァァ!!」
影の中から現れた暗黒の手に握られていたのは、いつの間にかエヴェリンのポケットから掠め取っていた、ただの真っ赤な『リンゴ』。
「これは……私の……!」
「そう、お前が『爆弾』やと妄想したリンゴや! ワイが死んでも、この距離で起爆すればお前もタダでは済まへん! 関西のド根性、見さらせぇぇぇ!!」
暗黒がリンゴのヘタを歯で引き抜いた。
その瞬間、リンゴが目も眩むような太陽のごとき光を放ち、二人の視界を完全に白染めにする。
公会堂の一角が跡形もなく吹き飛ぶ、すさまじい大爆破。
爆煙がゆっくりと晴れていく中、真っ先に地面に転がったのは、包帯をボロボロにした暗黒だった。
「な、なんでや……。わいも、なんでこんなダメージ受けて……自爆特攻やから、ワイの体は影で、衝撃を逃がすはずやったのに……」
バタリ、と倒れ込む暗黒。その脳裏に、直前にエヴェリンが呟いた冷徹な声が蘇る。
「言ったでしょう? 私の言葉は強い』
「い、いっとらんで……そんなカッコええセリフ、さっきは一言もいっとらへんがな……。設定の後付けが、強すぎる……ッ」
最後のツッコミを遺し、神代暗黒またの名をというか本名:田中よしこは完全に白目を剥いて失神した。
しかし。
「……くっ……はぁ……」
爆煙の向こう側で、エヴェリンもまた、その場に膝をついていた。
いくら自身の妄想が生み出した爆弾とはいえ、至近距離での大爆発。その衝撃波を完全に防ぎきることはできず、彼女の衣服は破れ、全身に激しい負荷がかかっている。
「こっちも……だめ、かも……。私の、妄想のシールドが、破れる、なんて……」
限界だった。エヴェリンの意識が急速に遠のき、愛用のリボルバーが手から滑り落ちて床に高い音を立てる。
そのままゆっくりと倒れ込むエヴェリン。
蘭王学園三幹部の一人を相打ちという形で葬り去ったものの、例示学園側もまた、貴重な大火力を一人失うこととなってしまった。
東西の厨二病の意地がぶつかり合った戦場に、静寂が戻る。




