第41話:鉄腕の副会長
熱海からさらに西へ――。
かつてウナギとバイクの街として栄え、今はサイバーパンクな超高層ビルとスラム街が混ざり合う、不夜城の無法地帯。
東西の境界線たる『ネオ浜松』の入り口に、生徒会長レインは立っていた。
「ここが、ネオ浜松ですわね……」
レインは不敵に微笑み、異形な進化を遂げた街のネオンを見つめる。
その時、彼女のすぐ真後ろ、完全に気配を消した闇の中から、極めて平坦で冷静な声が返ってきた。
「そうですね」
「……え?」
レインは心臓が跳ね上がるのを感じながら、ロボットのようにギギギ……と首を後ろへ巡らせた。
そこには、カシウスがいた。例示学園生徒会副会長にして、数々の抗争の末にレインの絶対的な右腕にして最強の補佐役になった存在。
「な、なんで貴方がここにいますの!?」
天下のバーサーカー会長レインが、本日初めて素の声を上げて狼狽した。自分は誰にも告げず、単身で殴り込んできたはずなのだ。
「なんで、とは心外ですね。私は副会長。貴女が暴走して他校を更地にするたび、事後処理の書類を徹夜で書かされる身にもなってください」
カシウスは、モーター音ひとつ立てずに駆動する漆黒の義手の指先で、静かに眼鏡の位置を直した。
「……いつから、私の後ろに?」
「沼津あたりからずっとストーキングしてました」
「え……」
「貴女が熱海で100人の雑兵をすり潰している間も、私は沼津の干物屋の陰からその様子を記録し、徒歩で一定の距離を保ちながら追尾していました。さすがに熱海からネオ浜松までずっとマッハで走られると追いつけないので、私は東海道新幹線の『こだま』を使いましたが」
「ただの不審者じゃないのぉぉぉぉ!!」
レインのプライドが、副会長のあまりにも完璧な隠密ストーキングによって粉々に打ち砕かれた。
「冗談はさておき、会長」
カシウスの義手が、カチリと音を立てて戦闘モードの駆動音を鳴らす。その瞳からおふざけが消え、例示学園の『影の統治者』としての冷徹な光が宿った。
「蘭王学園の本陣は、この先にある『ネオ中央公会堂』。すでにバイオお嬢様たちの主力部隊が、我々を迎え撃つために布陣を完了しています。……行きますよ、私の残業時間をこれ以上増やさないためにも」
「……フン。言われなくとも、全員ブチのめして差し上げますわ」
ストーキングの衝撃から立ち直ったレインが、再び凶悪な笑みを浮かべる。
最強のバーサーカー会長と、鉄腕の副会長。例示学園のトップ2が、ついにネオ浜松の最深部へと足を踏み入れた!




