第40話:爆走の黄金、熱海を通過中
熱海の高級旅館の屋根の上。
気絶した蘭王学園の雑兵100人が雑魚寝のように転がる凄惨な現場で、サクラは手元の通信端末が『ピピピ』と玩具のような警告音を鳴らしたのに気づいた。
画面に映し出されたのは、激しく上下に揺れる背景と、黄金の車内、そしてなぜか特攻服の襟元をガタガタと震わせているココアのドアップ。
「――もしもしサクラさん!? 聞こえまちゅか!?」
「ココアかい? 一体どうしたんだい、そっちの騒音は。……っていうか、あんたたちまさか、会長を追ってこっちに来ちまったのかい?」
サクラは額の汗を拭いながら尋ねる。レインが単身で突っ込んだのを追うだけでも手一杯なのに、これ以上B組のじゃじゃ馬たちが参戦すれば、熱海どころか静岡県ごと更地になりかねない。
しかし、画面の向こうのココアは、凄まじいGに耐えるような顔で首を振った。
「来たと言うか……現在進行形で、進んでいるんでチュ!!」
「進んでいる?」
「エリカが作った線路のいらない新幹線で、ハイパー東京からネオ浜松まで最短直線ルートを爆走中でちゅ! あと1分で熱海を通過し、そのまま山をブチ抜いてトンネルを自作しながら進むって言っていま――」
ココアの言葉が終わるより早く、熱海の山々を震撼させる凄まじい地鳴りが響き渡った。
サクラがとっさに西の空を見上げると、そこには、線路のない箱根の山肌を縦横無尽に跳ね回り、木々をなぎ倒しながら時速500キロで文字通り『飛来』してくる、金色に輝く新幹線の姿があった。
「嘘だろおい……あいつら、本当に『道なき道』を力技で……!」
サクラが呆然と呟いた瞬間、黄金のアルティメット号は熱海の上空を文字通り一瞬で通過。その際、車内の窓から、クソ重い粘土を腕につけられたアリシアが
「サクラさーーーん! 助けてーーー!」
と叫びながら通り過ぎていくのが見えた。
呆気にとられるサクラの足元で、端末からココアの通信が続く。
「……あ、いま熱海を通過しまちた。それはそうとサクラさん、そっちの状況はどうでちゅか?」
サクラは視線を落とし、周囲に転がっている蘭王学園の兵隊たちを見回した。
100人近くの強化人間たちが、全員一様に白目を剥いて泡を吹いている。
「あぁ……。こっちは100人くらいが倒れてるよ。……ということは、だ」
サクラは電子タバコを一口吸い、紫煙を夜空に吐き出した。
「会長の奴、もうとっくに熱海を抜けて、単身で『ネオ浜松』の本陣に殴り込みをかけてるね。この100人は、ただの『門番』にもなってないさね」
「やっぱりでちゅか。じゃあアタチたちも、このままネオ浜松の『王』の首根っこを掴みに行きまちゅわ!」
プツッ、と通信が切れる。
東海道を爆走する黄金の新幹線と、すでに現地で暴れ回っているであろう関東最凶の生徒会長。
東西の怪物が集う『ネオ浜松』は、間もなく未曾有の大混乱に包まれようとしていた。




