第35話:夜鳴きラーメン
チャルメラの音が、夜の住宅街に寂しげに響く。
学園の喧騒から離れた大通り沿い。赤提灯を揺らすラーメン屋の屋台のカウンターに、サクラは腰掛けていた。隣の席では、体育祭用の特攻服を脱ぎ捨て、私服のフリルドレスに身を包んだ小柄な少女が、短い足をぶらつかせている。
1年B組の特攻隊長であり、気に入らない奴の首の皮一枚を残して切り飛ばす小さな猛獣――ココアだ。
「……はい、醤油ラーメン。あんたは……オレンジジュースかい?」
「もらいまちゅ」
ココアはストローを幼咥えながら、鋭い眼光でサクラを見つめた。
サクラは割り箸をパチンと割り、湯気立つ器に視線を落とす。
「で? タンポポからの返事は?」
「やっぱり生徒会室に、果たし状が届いてマチュ」
ココアはジュースをゴクゴクと飲み干し、ふぅ、と小さく息を吐いた。タンポポの『消失』による隠密網は、すでに学園内の異変を正確に捉えていた。
「レインのことだ。1人で潰す気だろう」
「ラーメン一丁」
親父が静かに差し出してきたどんぶりを見つめながら、サクラはフゥフゥと麺をすすった。電子タバコ『αC-38』は、今だけはポケットの中で眠っている。
「……みんなを守るため?」
ココアが、ふと真面目なトーンで尋ねた。かつて『魔の七日間』を共に生き抜いた生徒会長レイン。彼女が単身で関西の刺客を迎え撃とうとするのは、学園の仲間を思っての行動なのか。
しかし、サクラは麺を咀嚼し、冷めた目で首を振った。
「いんや……あいつはバーサーカーだからね……1人で潰したいんだろう……」
「……」
「自分以外の誰にも、その獲物を触らせたくないのさ。エリカやアリシアと『初見』で戦うために手の内を隠すような戦闘狂だ。関西からわざわざ舞い込んできた極上の獲物を、他人に譲るわけがないさね」
ココアはグラスの氷をカチリと鳴らし、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「蘭王学園といえば、生物兵器の技術で無理やり凶悪な『悪役公女』を生み出している、関西の魔窟でちゅわ。例示学園とは根本の育ちが違いまちゅ」
「あぁ……面倒なことになるな……」
サクラはスープを飲み干し、器をカウンターに置いた。
何も知らない村娘アリシアが、その開戦の引き金を引いてしまったとも知らずに。
夜のネオ浜松から漂う不穏な風が、関東の夜空を静かに侵食し始めていた。




