第34話:蠢く果たし状
それは、激動の体育祭が終わり、ようやく例示学園に平穏が戻って2週間前後が経った、ある日の登校中のことだった。
「――おっ、またおうたな!!!」
住宅街の角を曲がった瞬間、背後から降ってきたのは、あの関西弁。
アリシアが驚いて振り返ると、そこには2週間前、高級住宅街のど真ん中で思いっきり迷子になっていた例の少女が立っていた。
「あ、あの時の!!」
「そういえば、前に会うた時はドタバタしとって名前名乗っとらんかったな! 『イザヨイ』ちゅうんがワイの名前やさかい、おぼえてって〜な!」
「わかりました! イザヨイさん!」
アリシアは持ち前の人懐っこさでブンブンと手を振る。
イザヨイはフッと不敵な笑みを浮かべ、アリシアの着ている例示学園の制服に視線を落とした。
(……この娘の制服、やっぱり例示学園のやつや。偶然とはいえ、ホンマ運がええわ)
イザヨイは懐の『何か』に触れながら、わざとらしくポンとアリシアの肩を叩いた。
「もうすぐ学校始まる時間やろ? ほら、遅刻してまうで、はよいきぃ」
「わっ、本当だ! ありがと、イザヨイさん、またね!」
アリシアはタッタッタと元気よく校門の方へと走っていく。その純朴な背中を見送りながら、イザヨイの目がスナイパーのように鋭く細められた。
「さてと……」
イザヨイは自身の指先を見る。先ほどアリシアの肩を叩いた瞬間、彼女の制服の背中に、肉眼では絶対に見えないほど小さな『粘着細胞』を付着させていたのだ。
「バイオ手紙、貼り付け完了や。これで確実に届くはずやで……」
アリシアが何も知らずに例示学園の重厚な校門をくぐり抜けた、その瞬間。
彼女の背中から、ドロリとした肉質を持つ不気味な封筒――通称『バイオ手紙』が分離した。
手紙は空中で瞬時に周囲の風景に溶け込む『ステルス迷彩』を発動。イザヨイがアリシアの生体情報から逆算して特定していた、学園の最高中枢――『生徒会室』に向けて、忍者の手裏剣のような軌道で鋭く跳んで行った。
自動で障害物を避け、窓の隙間をすり抜ける生物兵器。
関東の絶対王者である例示学園生徒会に、関西の怪物『蘭王学園』の牙が、ついに音もなく突き立てられようとしていた。




