第32話:勝負に勝ち、試合に負けた
「るあああああああああああーーーッ!!!」
ソニックブームを巻き起こし、コースのコンクリートを完全に消し炭にしながら爆進するアリシア。その横を、限界出力を超えて奇声を上げるエリカのジェットパックが並走する。
39位……28位……19位……!
アリス・メイデンから残留エネルギーを強奪した二人の暴走は、もはや誰にも止められなかった。前方を走るモブ令嬢たちが、アリシアの風圧だけで左右の田んぼへと吹き飛んでいく。
「な、何ですってぇぇぇ!?」
ゴール手前100メートル。直立不動で勝利を確信していたエヴェリンが、背後から迫る『地鳴り』に気づいて振り返り、恐怖に顔をひきつらせた。
「そこを退きなさーーーいッ!!」
アリシアとエリカは、エヴェリンを音速で轢き殺さんばかりの勢いで追い抜き、そのままゴールラインへと文字通り『突尾』した。あまりの速度に、ゴールの電光掲示板が爆発して火花を散らす。
――しかし。
『10万メートル走、終了ーーーッ!! 1位、生徒会書記…メイ!! 2位カシウス、! ……中略……そして、怒涛のゴボウ抜きを見せるも一歩及ばず! 1年B組アリシア、結果11位!!!』
「じゅ、11位ぃぃぃーーーーーっっっ!?」
ゴール直後、勢い余ってグラウンドの防護壁に頭から激突し、V字に埋まったアリシアの叫びが響き渡った。
あれだけドラマチックに覚醒し、あれだけの熱量でコースを焦がし、14位の強敵をジャーマンスープレックスでコンクリートに沈めたというのに。
結果は、表彰台どころか、入賞すら逃した、なんとも絶妙にコメントしづらい「
そう、アリシアはアリス・メイデンという強敵との「勝負には勝ち」、体育祭の競技としての「試合には負けた」のだ。
「はぁ……はぁ……。ま、満足ですわ……。わたくしたち、あの絶望から、よくぞここまで……」
横で力尽き、灰色の燃え尽き症候群になっているエリカ。
「エリカ、現実を見て! 11位だよ!? メディアのカメラ、全員1位のケツワープ書記の方しか向いてないよ!! 完全に引き立て役だよこれ!!」
防護壁からスポンと頭を抜いたアリシアが、泥だらけの体操着のまま絶望に打ちひしがれる。
朝礼台の上。
電子タバコを吹かすサクラが、11位で終わったアリシアたちを見て
「ぷっ」
と小さく吹き出した。
「あはは、あの子たち、あれだけ大暴れして11位さね。最高にマヌケで、最高にバレット組らしいじゃないか」
「……フン。詰めが甘いですわね。ですが……」
生徒会長レインは、手元の端末でアリシアの最高時速のデータを眺めながら、その妖艶な唇を歪な形へと釣り上げた。
「あの村娘……底が知れませんわ。フフ、フハハハハ……! 今後がますます楽しみになってきましたわね……!!」
最強の吸血令嬢をボコボコにしたものの、結果はきっちり惨敗。
アリシアの「世界一締まらない最強への道」は、まだまだ始まったばかりである!
「まるで最終回ですわね」
「…終わらないけどね」




